営業譲渡契約が株主総会の特別決議を経ず無効であるとの譲受人の主張と信義則

(昭和61年9月11日最高裁)

事件番号  昭和56(オ)1094

 

この裁判では、

営業譲渡契約が株主総会の特別決議を経ず

無効であるとの譲受人の主張と信義則について

裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

本件営業譲渡契約は、その契約の実質的な目的及び

内容等にかんがみるならば、

Dが上告会社の発起人組合の代表者として

設立中の上告会社のために会社の設立を停止条件としてした

積極消極両財産を含む営業財産を

取得する旨の契約であると認められるから、

本件営業譲渡契約は、商法168条1項6号の定める

財産引受に当たるものというべきである。

 

そうすると、本件営業譲渡契約は、上告会社の原始定款に

同号所定の事項が記載されているのでなければ、無効であり、

しかも、同条項が無効と定めるのは、

広く株主・債権者等の会社の利害関係人の保護を

目的とするものであるから、

本件営業譲渡契約は何人との関係においても常に無効であって、

設立後の上告会社が追認したとしても、

あるいは上告会社が譲渡代金債務の一部を履行し、

譲り受けた目的物について使用若しくは

消費、収益、処分又は権利の行使などしたとしても、

これによって有効となりうるものではないと解すべきであるところ、

原審の確定したところによると、

右の所定事項は記載されていないというのであるから、

本件営業譲渡契約は無効であって、

契約の当事者である上告会社は、

特段の事情のない限り、右の無効をいつでも

主張することができるものというべきである。

 

つぎに、本件営業譲渡契約が譲渡の目的としたものは、

原審の確定したところによると、

たばこ製造機械・小型デイーゼルエンジンの製造販売を目的とする

被上告会社の有する三工場のうち専ら

小型デイーゼルエンジンの製造販売に当たっていた

E工場の営業一切であるというのであるから、

商法245条1項1号にいう営業の

「重要ナル一部」に当たるものというべきである。

 

そうすると、本件営業譲渡契約は、譲渡をした

被上告会社が商法245条1項に基づき同法343条に定める

株主総会の特別決議によって

これを承認する手続を経由しているのでなければ、

無効であり、しかも、その無効は、

原始定款に記載のない財産引受と同様、

広く株主・債権者等の会社の利害関係人の保護を

目的とするものであるから、

本件営業譲渡契約は何人との関係においても

常に無効であると解すべきである。

 

しかるところ、原審の確定したところによると、

本件営業譲渡契約については事前又は事後においても

右の株主総会による承認の手続をしていないというのであるから、

これによっても、

本件営業譲渡契約は無効であるというべきである。

 

そして、営業譲渡が譲渡会社の株主総会による承認の手続を

しないことによって無効である場合、譲渡会社、

譲渡会社の株主・債権者等の会社の利害関係人のほか、

譲受会社もまた右の無効を

主張することができるものと解するのが相当である。

 

けだし、譲渡会社ないしその利害関係人のみが

右の無効を主張することができ、

譲受会社がこれを主張することができないとすると、

譲受会社は、譲渡会社ないし

その利害関係人が無効を主張するまで

営業譲渡を有効なものと扱うことを余儀なくされるなど

著しく不安定な立場におかれることになるからである。

 

したがって、譲受会社である上告会社は、

特段の事情のない限り、本件営業譲渡契約について

右の無効をいつでも主張することができるものというべきである。

 

そこで、上告会社に

本件営業譲渡契約の無効を主張することができない

特段の事情があるかどうかについて検討するに、

原審の確定した事実関係によれば、

被上告会社は本件営業譲渡契約に基づく

債務をすべて履行ずみであり、他方上告会社は

右の履行について苦情を申し出たことがなく、

また、上告会社は、本件営業譲渡契約が有効であることを前提に、

被上告会社に対し本件営業譲渡契約に基づく自己の債務を承認し、

その履行として譲渡代金の一部を弁済し、かつ、

譲り受けた製品・原材料等を販売又は消費し、しかも、

上告会社は、原始定款に所定事項の記載がないことを理由とする

無効事由については契約後約9年、株主総会の承認手続を

経由していないことを理由とする無効事由については

契約後約20年を経て、初めて主張するに至ったものであり、

両会社の株主・債権者等の会社の利害関係人が

右の理由に基づき本件営業譲渡契約が無効であるなどとして

問題にしたことは全くなかった、というのであるから、

上告会社が本件営業譲渡契約について商法168条1項6号又は

245条1項1号の規定違反を理由にその無効を主張することは、

法が本来予定した上告会社又は被上告会社の

株主・債権者等の利害関係人の利益を保護するという

意図に基づいたものとは認められず、右違反に籍口して、

専ら、既に遅滞に陥つた本件営業譲渡契約に基づく

自己の残債務の履行を拒むためのものであると認められ、

信義則に反し許されないものといわなければならない。

 

したがって、上告会社が本件営業譲渡契約について

商法の右各規定の違反を理由として無効を主張することは、

これを許さない特段の事情があるというべきである。

 

全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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