業務上の注意義務

(平成28年5月25日最高裁)

事件番号  平成26(あ)1105

 

この裁判は、

ガス抜き配管内で結露水が滞留して

メタンガスが漏出したことによって生じた

温泉施設の爆発事故について,

設計担当者に結露水の水抜き作業に係る情報を

確実に説明すべき業務上の注意義務があったとされた事例です。

 

最高裁判所の見解

本件は,上記のとおり,

ガス抜き配管内での結露水の滞留による

メタンガスの漏出に起因する温泉施設の爆発事故であるところ,

被告人は,その建設工事を請け負った

本件建設会社におけるガス抜き配管設備を含む

温泉一次処理施設の設計担当者として,職掌上,

同施設の保守管理に関わる設計上の留意事項を

施工部門に対して伝達すべき立場にあり,自ら,

ガス抜き配管に取り付けられた

水抜きバルブの開閉状態について指示を変更し,

メタンガスの爆発という危険の発生を防止するために

安全管理上重要な意義を有する各ガス抜き配管からの

結露水の水抜き作業という新たな管理事項を生じさせた。

 

そして,水抜きバルブに係る指示変更とそれに伴う

水抜き作業の意義や必要性について,

施工部門に対して的確かつ容易に伝達することができ,

それによって上記爆発の危険の発生を

回避することができたものであるから,

被告人は,水抜き作業の意義や必要性等に関する情報を,

本件建設会社の施工担当者を通じ,あるいは自ら直接,

本件不動産会社の担当者に対して確実に説明し,

メタンガスの爆発事故が発生することを防止すべき

業務上の注意義務を負う立場にあったというべきである。

 

本件においては,この伝達を怠ったことによって

メタンガスの爆発事故が発生することを

予見できたということもできるから,

この注意義務を怠った点について,

被告人の過失を認めることができる。

 

なお,所論は,設計担当者である被告人は,

施工担当者から本件不動産会社に対して

水抜き作業の必要性について適切に

説明されることを信頼することが許される旨主張する。

 

しかし,被告人は,本件建設会社の施工担当者に対して,

結露水排出の意義等に関する記載のない

本件スケッチを送付したにとどまり,

その後も水抜きバルブに係る指示変更と

それに伴う水抜き作業の意義や必要性に関して十分な情報を

伝達していなかったのであるから,施工担当者の適切な行動により

本件不動産会社に対して水抜き作業に関する情報が的確に

伝達されると信頼する基礎が欠けていたことは明らかである。

 

したがって,被告人に本件爆発事故について過失があるとして,

業務上過失致死傷罪の成立を認めた

第1審判決を是認した原判決は,正当である。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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