誤振込みと知りながら預金の払戻しを受けた場合と詐欺罪

(平成15年3月12日最高裁)

事件番号  平成10(あ)488

 

この裁判では、自分の銀行口座に誤った振り込みがあったことを知りながら、

預金を引き出した行為が詐欺罪にあたるかどうかの判断が示されました。

 

最高裁判所の見解

本件において,振込依頼人と受取人である被告人との間に

振込みの原因となる法律関係は存在しないが,

このような振込みであっても,受取人である被告人と

振込先の銀行との間に振込金額相当の普通預金契約が成立し,

被告人は,銀行に対し,上記金額相当の普通預金債権を取得する

(最高裁平成4年(オ)第413号同8年4月26日

第二小法廷判決・民集50巻5号1267頁参照)。

 

しかし他方,記録によれば,銀行実務では,

振込先の口座を誤って振込依頼をした振込依頼人からの申出があれば,

受取人の預金口座への入金処理が完了している場合であっても,

受取人の承諾を得て振込依頼前の状態に戻す,

組戻しという手続が執られている。

 

また,受取人から誤った振込みがある旨の指摘があった場合にも,

自行の入金処理に誤りがなかったかどうかを確認する一方,

振込依頼先の銀行及び同銀行を通じて振込依頼人に対し,

当該振込みの過誤の有無に関する照会を行うなどの措置が講じられている。

 

これらの措置は,普通預金規定,振込規定等の趣旨に沿った取扱いであり,

安全な振込送金制度を維持するために有益なものである上,

銀行が振込依頼人と受取人との紛争に巻き込まれないためにも

必要なものということができる。

 

また,振込依頼人,受取人等関係者間での

無用な紛争の発生を防止するという観点から,

社会的にも有意義なものである。

 

したがって,銀行にとって,

払戻請求を受けた預金が誤った振込みによるものか否かは,

直ちにその支払に応ずるか否かを決する上で

重要な事柄であるといわなければならない。

 

これを受取人の立場から見れば,受取人においても,

銀行との間で普通預金取引契約に基づき継続的な預金取引を行っている者として,

自己の口座に誤った振込みがあることを知った場合には,

銀行に上記の措置を講じさせるため,誤った振込みがあった旨を

銀行に告知すべき信義則上の義務があると解される。

 

社会生活上の条理からしても,誤った振込みについては,

受取人において,これを振込依頼人等に返還しなければならず,

誤った振込金額相当分を最終的に自己のものとすべき

実質的な権利はないのであるから,

上記の告知義務があることは当然というべきである。

 

そうすると,誤った振込みがあることを知った受取人が,

その情を秘して預金の払戻しを請求することは,

詐欺罪の欺罔行為に当たり,

また,誤った振込みの有無に関する錯誤は

同罪の錯誤に当たるというべきであるから,

錯誤に陥った銀行窓口係員から受取人が預金の払戻しを受けた場合には,

詐欺罪が成立する

 

全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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