プロダクト・バイ・プロセス・クレームにおける特許発明の技術的範囲の確定

(平成27年6月5日最高裁)

事件番号  平成24(受)1204

 

この裁判では、

物の発明についての特許に係る特許請求の範囲に

その物の製造方法が記載されているいわゆる

プロダクト・バイ・プロセス・クレームにおける

特許発明の技術的範囲の確定について

裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

(1) 願書に添付した特許請求の範囲の記載は,これに基づいて,

特許発明の技術的範囲が定められ(特許法70条1項),かつ,

同法29条等所定の特許の要件について審査する前提となる

特許出願に係る発明の要旨が認定される

(最高裁昭和62年(行ツ)第3号平成3年3月8日

第二小法廷判決・民集第45巻3号123頁参照)

という役割を有しているものである。

 

そして,特許は,物の発明,方法の発明又は物を

生産する方法の発明についてされるところ,

特許が物の発明についてされている場合には,

その特許権の効力は,当該物と構造,特性等が同一である物であれば,

その製造方法にかかわらず及ぶこととなる。

 

したがって,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲に

その物の製造方法が記載されている場合であっても,

その特許発明の技術的範囲は,当該製造方法により製造された物と

構造,特性等が同一である物として

確定されるものと解するのが相当である。

 

(2) ところで,特許法36条6項2号によれば,

特許請求の範囲の記載は,「発明が明確であること」

という要件に適合するものでなければならない。

 

特許制度は,発明を公開した者に

独占的な権利である特許権を付与することによって,

特許権者についてはその発明を保護し,

一方で第三者については特許に係る発明の内容を把握させることにより,

その発明の利用を図ることを通じて,

発明を奨励し,もって産業の発達に寄与することを

目的とするものであるところ(特許法1条参照),

同法36条6項2号が特許請求の範囲の記載において

発明の明確性を要求しているのは,

この目的を踏まえたものであると解することができる。

 

この観点からみると,物の発明についての特許に係る

特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されているあらゆる場合に,

その特許権の効力が当該製造方法により製造された

物と構造,特性等が同一である物に及ぶものとして

特許発明の技術的範囲を確定するとするならば,

これにより,第三者の利益が不当に害されることが生じかねず,

問題がある。すなわち,物の発明についての

特許に係る特許請求の範囲において,

その製造方法が記載されていると,一般的には,

当該製造方法が当該物のどのような構造若しくは

特性を表しているのか,又は物の発明であっても

その特許発明の技術的範囲を当該製造方法により

製造された物に限定しているのかが不明であり,

特許請求の範囲等の記載を読む者において,

当該発明の内容を明確に理解することができず,

権利者がどの範囲において独占権を有するのかについて

予測可能性を奪うことになり,適当ではない。

 

他方,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲においては,

通常,当該物についてその構造又は特性を明記して

直接特定することになるが,その具体的内容,性質等によっては,

出願時において当該物の構造又は特性を解析することが

技術的に不可能であったり,特許出願の性質上,

迅速性等を必要とすることに鑑みて,

特定する作業を行うことに著しく過大な経済的支出や時間を要するなど,

出願人にこのような特定を要求することが

およそ実際的でない場合もあり得るところである。

 

そうすると,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲に

その物の製造方法を記載することを一切認めないとすべきではなく,

上記のような事情がある場合には,

当該製造方法により製造された物と構造,特性等が

同一である物として特許発明の技術的範囲を確定しても,

第三者の利益を不当に害することがないというべきである。

 

以上によれば,物の発明についての特許に係る

特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において,

当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう

「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは,

出願時において当該物をその構造又は特性により

直接特定することが不可能であるか,又はおよそ

実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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