営業保証金の取戻請求権の消滅時効の起算点

(平成28年3月31日最高裁)

事件番号  平成27(行ヒ)374

 

この裁判では、

宅地建物取引業法30条1項前段所定の事由が発生した場合において,

同条2項本文所定の公告がされなかったときにおける

営業保証金の取戻請求権の消滅時効の起算点について

裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

(1) 宅建業法に基づく営業保証金の供託は,

民法上の寄託契約の性質を有するものであることから,

その取戻請求権の消滅時効は,同法166条1項により

「権利を行使することができる時」から進行し,

同法167条1項により10年をもって完成するものと解される

(最高裁昭和40年(行ツ)第100号同45年7月15日大法廷判決・

民集24巻7号771頁参照)。

 

そして,宅建業法30条1項前段所定の取戻事由が発生した場合において

取戻公告がされなかったときは,宅建業者であった者等は,

同条2項の定めによれば,取戻事由が発生した時から10年を経過するまでの間,

上記取戻請求権を行使することはできないこととなるのであるから,

上記の間,上記取戻請求権の行使について法律上の障害があることは明らかである。

 

(2) 原審は,本件取戻請求権の消滅時効の起算点について

前記3のとおり判断するところ,この判断は,

宅建業者であった者等は取戻事由が発生すれば直ちに

公告期間を最短の6か月と定めて取戻公告をすることができるから,

取戻事由の発生時から6か月を経過すれば,

取戻公告をしていないからといって,

そのような法律上の障害を理由として営業保証金の取戻請求権に係る

消滅時効の進行が妨げられるものではないとの

解釈を前提としているものと解される。

 

しかし,宅建業法の定める営業保証金の制度は,

営業上の取引による債務の支払を担保するための営業保証金を

供託させることによって,その取引の相手方を保護すること等を

目的とするものである(最高裁昭和36年(オ)第496号同37年10月24日

大法廷判決・民集16巻10号2143頁参照)。

 

そして,同法30条2項は,

営業保証金の取戻請求ができる場合として,

同項本文所定の場合と共に,

同項ただし書所定の場合を定めている。

 

同項本文は,宅建業者であった者等が

早期に営業保証金を取り戻す利益と

その取引の相手方の保護の必要性との調整を図るため,

宅建業者であった者等が取戻事由の発生時から

10年の経過を待たずして営業保証金の取戻請求をする場合に,

6か月以上の公告期間を定めて取戻公告をするよう要求し,さらに,

同公告期間内に還付請求権者からの申出がないか,又は,

同公告期間内に申出があったが,その申出に係る権利につき

その不存在若しくは消滅を書面により証明するか

(同条3項の委任に基づく宅地建物取引業者営業保証金規則10条1号,2号参照),

いずれかの要件を充足することを求めることにより,

取引の相手方に対して還付請求権を行使する機会を

確保することを目的とするものと解される。

 

他方,同項ただし書所定の場合に取戻公告をしないで

取戻請求ができることとされているのは,

取戻事由の発生時から10年を経過した後は,

その還付請求権を行使する機会を特に確保するまでの

必要性がないことによるものと解される。

 

以上のような営業保証金及び取戻公告の制度趣旨等に照らすと,

宅建業法30条2項の規定は,取戻請求をするに当たり,

同項本文所定の取戻公告をすることを義務的なもの又は

原則的なものとする趣旨ではなく,

取戻公告をして取戻請求をするか,

取戻公告をすることなく同項ただし書所定の期間の経過後に

取戻請求をするかの選択を,宅建業者であった者等の

自由な判断に委ねる趣旨であると解するのが相当である。

 

そうすると,取戻公告をすることなく取戻請求をする場合に,

宅建業者であった者等は取戻事由が発生すれば直ちに

公告期間を最短の6か月と定めて取戻公告をすることができることを理由として,

取戻事由の発生時から6か月を経過した時から

取戻請求権の消滅時効が進行すると解することは,

上記の選択を宅建業者であった者等の自由な判断に委ねた

宅建業法30条2項の趣旨に反するといわざるを得ない

(最高裁平成17年(受)第844号同19年4月24日

第三小法廷判決・民集61巻3号1073頁,

最高裁平成20年(受)第468号同21年1月22日第一小法廷判決・

民集63巻1号247頁等参照)。

 

このことは,原審が前提とする上記のような解釈によれば,

宅建業者であった者等が取戻公告をすることなく

取戻請求をすることとした場合,

取戻請求権を行使し得る期間は同項ただし書所定の

期間経過後の僅か6か月間に限定され,

その取戻請求権の行使につき重大な制約が

課され得ることになることからも明らかである。

 

(3) 以上によれば,宅建業法30条1項前段所定の

取戻事由が発生した場合において,

取戻公告がされなかったときは,

営業保証金の取戻請求権の消滅時効は,

当該取戻事由が発生した時から10年を経過した時から

進行するものと解するのが相当である。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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