猶予費用の取立決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件

(平成29年9月5日最高裁)

事件番号  平成28(許)40

 

この裁判では、

 訴訟費用のうち一定割合を受救助者の負担とし,

その余を相手方当事者の負担とする旨の裁判が確定した後,

訴訟費用の負担の額を定める処分を求める申立てがされる前に,

裁判所が受救助者に猶予した費用につき当該相手方当事者に対して

民訴法85条前段の費用の取立てを

することができる額を定める場合において,

その額につき,受救助者に猶予した費用に上記裁判で定められた

当該相手方当事者の負担割合を乗じた額とすべきものとした

原審の判断に違法があるとされた事例です。

 

最高裁判所の見解

(1) 民訴法85条前段の規定は,本来,受救助者が,

訴訟費用請求権の行使として相手方から

その負担すべき費用を取り立てて,

猶予費用を国庫に支払うべきであるところ,受救助者において,

上記の取立て等をすることを必ずしも期待できないため,

国が猶予費用を相手方から

直接取り立てることができるようにしたものである。

 

そして,同条前段の費用の取立てについては,

第1審裁判所の決定により,強制執行をすることが

できるとされており(民事訴訟費用等に関する法律16条2項,15条1項),

同裁判所が民訴法85条前段の費用の取立てを

することができる猶予費用の額を定めることになる。

 

一方,訴訟費用請求権の額,すなわち,訴訟費用の負担の額は,

その負担の裁判が執行力を生じた後に,申立てにより,

第1審裁判所の裁判所書記官が定めることとされ(民訴法71条1項),

上記申立てにより,訴訟費用額確定処分を求めるときは,

その申立人は,費用計算書等を裁判所書記官に

提出しなければならず(民訴規則24条2項),

裁判所書記官は,訴訟費用額確定処分をする前に,

上記申立ての相手方に対し,費用計算書等を一定の期間内に

提出すべき旨を催告しなければ

ならないものとされている(同規則25条1項本文)。

 

そして,訴訟費用額確定処分をする場合において,

当事者双方が訴訟費用を負担するときは,

各当事者の負担すべき費用は,その対当額について

相殺があったものとみなすものとされているが,

上記相手方が上記期間内に上記費用計算書等を提出しない場合には,

そのような取扱いをしないものとされている

(民訴法71条2項,民訴規則27条)。

 

このように,各当事者の負担すべき費用につき

訴訟費用額確定処分又は差引計算を求めるか否か及び

その求める範囲がいずれも当事者の意思に委ねられていることからすると,

上記の各点についての各当事者の意思が明らかにならない限り,

当事者の一方の他方に対する各訴訟費用請求権の額を

判断する上で考慮される各当事者の

負担すべき費用を定めることができない。

 

そして,上記各当事者の意思は,訴訟費用額確定処分を

求める申立てがされる前においては

明らかにならないのが通常である。

 

以上によれば,民訴法85条前段の

費用の取立てをすることができる猶予費用の額は,

受救助者の相手方に対する訴訟費用請求権の額を

超えることができない筋合いであるが,

訴訟費用のうち一定割合を相手方の負担とし,

その余を受救助者の負担とする旨の裁判が確定した後,

訴訟費用額確定処分を求める申立てがされる前に,

裁判所が同条前段の費用の取立てをすることができる

猶予費用の額を定める場合においては,

上記の観点から当該事案に係る事情を踏まえた合理的な

裁量に基づいてその額を定めるほかない。

 

そして,訴訟費用額確定処分に係る上記の定めのとおり,

訴訟費用請求権の額を判断する上で考慮される各当事者の

負担すべき費用を定めることが

当事者の意思に委ねられていることからすると,

上記の場合において,猶予費用以外の

当事者双方の支出した費用を考慮せずに,

猶予費用に上記裁判で定められた

相手方の負担割合を乗じた額と定めることが,

直ちに裁判所の合理的な裁量の範囲を逸脱するものとはいえない。

 

(2) しかしながら,本件においては,

訴訟費用額確定処分を求める申立てがされる前に,

裁判所が民訴法85条前段の費用の取立てをすることができる

猶予費用の額を定めるという上記の場合に当たるものの,

Aが訴え提起の手数料として少額とはいえない

8万6000円の支出をし,抗告人らは,

Aの地位を承継して,原々決定に対する即時抗告をし,

その際にBの負担すべき費用との

差引計算を求めることを明らかにしている。

 

そして,裁判所が抗告人らに対しBの負担すべき費用との

差引計算を求める範囲を明らかにするよう求めたときに,

抗告人らが上記範囲を明らかにしないと

認められる事情はうかがわれない。

 

このようなときには,裁判所は,

訴訟記録等により判明するところに従って,

Bの抗告人らに対する訴訟費用請求権の額を判断する上で

考慮されるBの負担すべき費用の有無及び額を審理すべく,

抗告人らに対し上記範囲を明らかにするよう求めるべきである。

 

したがって,抗告人らに対しBの負担すべき費用との

差引計算を求める範囲を明らかにするよう求めることのないまま,

本件取立額につき,Bの猶予費用29万7500円の

5分の3に2分の1を乗じた額である

8万9250円とすべきものとした

原審の判断には,本件事案に係る事情を踏まえた

裁判所の合理的な裁量の範囲を逸脱した違法がある。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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