生活保護法62条3項に基づく保護の廃止

(平成26年10月23日最高裁)

事件番号  平成25(受)492

 

この裁判では、

生活保護法62条3項に基づく保護の廃止の決定に先立ち,

処分行政庁による被保護者に対する同法27条1項に基づく指示が

生活保護法施行規則19条により書面によって行われた場合において,

当該書面に記載されていた事項に代わる対応として

処分行政庁が口頭で指導していた事項が指示の内容に含まれると

解することはできないとされた事例について裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

生活保護法62条1項は,

保護の実施機関が同法27条の規定により

被保護者に対し必要な指導又は指示をしたときは,

被保護者はこれに従わなければならない旨を定め,

同法62条3項は,被保護者がこの義務に違反したときは,

保護の実施機関において保護の廃止等をすることができる旨を定めている。

 

そして,生活保護法施行規則19条は,

同法62条3項に規定する保護の実施機関の権限につき,

同法27条1項の規定により保護の実施機関が書面によって行った指導又は

指示に被保護者が従わなかった場合でなければ

行使してはならない旨を定めているところ,

その趣旨は,保護の実施機関が上記の権限を行使する場合にこれに先立って

必要となる同項に基づく指導又は指示を

書面によって行うべきものとすることにより,

保護の実施機関による指導又は指示及び保護の廃止等に係る判断が慎重かつ

合理的に行われることを担保してその恣意を抑制するとともに,

被保護者が従うべき指導又は指示がされたこと及びその内容を明確にし,

それらを十分に認識し得ないまま不利益処分を受けることを防止して,

被保護者の権利保護を図りつつ,指導又は

指示の実効性を確保することにあるものと解される。

 

このような生活保護法施行規則19条の規定の趣旨に照らすと,

上記書面による指導又は指示の内容は,

当該書面自体において指導又は指示の内容として

記載されていなければならず,

指導又は指示に至る経緯及び従前の指導又は

指示の内容やそれらに対する被保護者の認識,

当該書面に指導又は指示の理由として

記載された事項等を考慮に入れることにより,

当該書面に指導又は指示の内容として記載されていない事項まで

指導又は指示の内容に含まれると解することはできないというべきである。

 

これを本件についてみるに,前記2(5)のとおり,

本件指示書には,指示の内容として,

本件請負業務による収入を月額11万円まで

増収すべき旨が記載されているのみであり,

本件自動車を処分すべきことも指示の内容に

含まれているものと解すべき記載は見当たらないから,

本件指示の内容は上記の増収のみと解され,

処分行政庁が上告人に対し従前から増収とともに

これに代わる対応として本件自動車の処分を口頭で指導し,

上告人がその指導の内容を理解しており,

本件指示書にも指示の理由として

従前の指導の経過が記載されていたとしても,

本件自動車の処分が本件指示の内容に含まれると

解することはできないというべきである。

 

以上のとおり,原審の前記3の判断には,

判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

 

論旨はこれと同旨をいうものとして理由があり,

原判決は破棄を免れない。

 

そして,生活保護法27条1項に基づく指導又は

指示の内容が客観的に実現不可能又は著しく実現困難である場合には,

当該指導又は指示に従わなかったことを理由に

同法62条3項に基づく保護の廃止等をすることは違法となると解されるところ,

本件指示については,その内容が,

本件請負業務による収入を月額11万円まで

増収すべきことのみであることを前提に,

客観的に実現不可能又は著しく実現困難なものであったか否か,すなわち,

本件指示に従わなかったことを理由にされた

本件廃止決定が違法となるか否か,また,

仮に本件廃止決定が違法となる場合に,

これが国家賠償法上も違法と評価されるか否か等について

審理を尽くす必要がある。

 

そこで,以上の各点について審理を尽くさせるため,

本件を原審に差し戻すこととする。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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