交通事故の被害者が事故のため介護を要する状態となった後に別の原因で死亡した場合

(平成11年12月20日最高裁)

事件番号  平成10(オ)583

 

この裁判では、

交通事故の被害者が事故のため介護を要する状態となった後に

別の原因で死亡した場合について

裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

交通事故の被害者が事故に起因する傷害のために

身体的機能の一部を喪失し、

労働能力の一部を喪失した場合において、

逸失利益の算定に当たっては、その後に被害者が

別の原因により死亡したとしても、右交通事故の時点で、

その死亡の原因となる具体的事由が存在し、

近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの

特段の事情がない限り、右死亡の事実は就労可能期間の

認定上考慮すべきものではないと解するのが相当である

(最高裁平成五年(オ)第527号同8年4月25日

第一小法廷判決・民集50巻5号1221頁、

最高裁平成5年(オ)第1958号同8年5月31日

第二小法廷判決・民集50巻6号1323頁参照)。

 

これを本件について見ると、前記一の事実によれば、

亡Dが本件事故に遭ってから胃がんにより死亡するまで

約4年10箇月が経過しているところ、

本件事故前、亡Dは普通に生活をしていて、

胃がんの兆候はうかがわれなかったのであるから、

本件において、右の特段の事情があるということはできず、

亡Dの就労可能期間の認定上、

その死亡の事実を考慮すべきではない。

 

しかし、介護費用の賠償については、

逸失利益の賠償とはおのずから別個の考慮を必要とする。

 

すなわち、(一)介護費用の賠償は、

被害者において現実に支出すべき費用を補てんするものであり、

判決において将来の介護費用の支払を命ずるのは、

引き続き被害者の介護を必要とする

蓋然性が認められるからにほかならない。

 

ところが、被害者が死亡すれば、

その時点以降の介護は不要となるのであるから、

もはや介護費用の賠償を命ずべき理由はなく、

その費用をなお加害者に負担させることは、

被害者ないしその遺族に根拠のない利得を与える結果となり、

かえって衡平の理念に反することになる。

 

(二)交通事故による損害賠償請求訴訟において

一時金賠償方式を採る場合には、損害は交通事故の時に

一定の内容のものとして発生したと観念され、

交通事故後に生じた事由によって損害の内容に

消長を来さないものとされるのであるが、

右のように衡平性の裏付けが欠ける場合にまで、

このような法的な擬制を及ぼすことは相当ではない。

 

(三)被害者死亡後の介護費用が損害に当たらないとすると、

被害者が事実審の口頭弁論終結前に死亡した場合と

その後に死亡した場合とで賠償すべき

損害額が異なることがあり得るが、

このことは被害者死亡後の介護費用を損害として

認める理由になるものではない。

 

以上によれば、交通事故の被害者が

事故後に別の原因により死亡した場合には、

死亡後に要したであろう介護費用を右交通事故による損害として

請求することはできないと解するのが相当である。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

交通事故判例コーナートップへ


行政書士試験にわずか147日で合格した勉強法

行政書士受験生にオススメのAmazon Kindle Unlimitedで読める本


スポンサードリンク

関連記事