議決権等の株主の権利を行使を阻止するための利益供与

(平成18年4月10日最高裁)

事件番号  平成15(受)1154

 

この裁判では、

議決権等の株主の権利を行使を阻止するための利益供与について

裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

株式の譲渡は株主たる地位の移転であり,それ自体は

「株主ノ権利ノ行使」とはいえないから,会社が,

株式を譲渡することの対価として何人かに利益を供与しても,

当然には商法294条ノ2第1項が禁止する利益供与には当たらない

 

しかしながら,会社から見て好ましくないと判断される株主が

議決権等の株主の権利を行使することを回避する目的で,

当該株主から株式を譲り受けるための対価を何人かに供与する行為は,

上記規定にいう「株主ノ権利ノ行使ニ関シ」

利益を供与する行為というべきである。

 

前記事実関係によれば,B社は,

Aが保有していた大量のB社株を

暴力団の関連会社に売却したというAの言を信じ,

暴力団関係者がB社の大株主として

B社の経営等に干渉する事態となることを恐れ,

これを回避する目的で,上記会社から株式の買戻しを受けるため,

約300億円というおよそ正当化できない巨額の金員を,

う回融資の形式を取ってAに供与したというのであるから,

B社のした上記利益の供与は,商法294条ノ2第1項にいう

「株主ノ権利ノ行使ニ関シ」されたものであるというべきである。

 

債務の肩代わり及び担保提供(本件方策)について

忠実義務,善管注意義務違反(商法266条1項5号)の責任について

前記事実関係によれば,B社としては,

本来,債務の肩代わりに協力する必要はなかった上,

B社株を1株5000円とする評価は,

株価操作も加わるなどして異常な高値となっていたものであって,

将来株式の買取りがされることを前提として,

そのような高値による買取り額と

見合う額でされた融資による債務の肩代わりは,

B社株を高値で売り抜けたいという

Aの思惑に合致するものであり,

B社にとって利益になることではなかったことが明らかである。

 

しかも,更に前記事実関係によれば,

S社,I社,J社が破綻すれば,

これらの融資の返済は極めて困難な

状況になることが明らかであった上,

関連会社が支払不能になれば,B社が最終的に

関連会社の債務を引き受けざるを得ないものであり,

本件方策は,B社にとっては,巨額の損失を被る

可能性の高い方策であったというのである。

 

したがって,被上告人らは,

Aの理不尽な要求に応ずるべきではなく,

少なくとも本件方策のような対応をすることを

避けるべき義務があったというべきであり,

Aの要求を退けるために前記300億円の喝取の件を含む

Aの言動について警察に届け出るなどの適切な対応をすることが

期待できない状況にあったということもできないから,

本件方策を提案し又はこれに同意して債務の肩代わり及び

担保提供を行った被上告人らの行為について,

無理からぬところがあったとして過失を否定することは,

できないというべきである。

 

なお,原審は,Qファイナンス社に対する

600億円の債務の肩代わりについても,

本件方策に基づく債務の肩代わり及び

担保提供と一体のものとして判断し,

過失を否定しているが,上記債務の肩代わりは

本件方策の提案より前にされたものであるから,

本件方策に基づく債務の肩代わりとは別途に

過失の有無が判断されなければならない。

 

 株主の権利行使に関する利益供与の

禁止規定違反(商法266条1項2号)の責任について

 

前記事実関係によれば,本件方策においては

形式的にはB社の関連会社が融資の主体として関与するものの,

B社自体やその100%子会社であるF社も所有物件に

担保を設定するなどしている上,関連会社が支払不能になれば,

B社が最終的に関連会社の債務を引き受けざるを得ないという

前提があったというのであるから,

本件方策に基づく債務の肩代わり及び担保提供の実質は,

B社が関連会社等を通じてした

巨額の利益供与であることを否定することができない。

 

そして,本件方策は,

AがB社株をK銀行等に売却するなどと

発言している状況の下で,

将来Aから株式を取得する者の株主としての

権利行使を事前に封じ,

併せてAの大株主としての影響力の行使をも封ずるために

採用されたものであるから,

本件方策に基づく債務の肩代わり及び

担保提供が商法294条ノ2第1項にいう

「株主ノ権利ノ行使ニ関シ」されたものであるというべきである。

 

 

全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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