強制採尿令状により採尿場所まで連行することの適否

(平成6年9月16日最高裁)

事件番号  平成6(あ)187

 

この裁判では、

強制採尿令状により採尿場所まで連行することの適否について

裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

本件における強制採尿手続は、

被告人を本件現場に6時間半以上にわたって留め置いて、

職務質問を継続した上で行われているのであるから、

その適法性については、それに先行する

右一連の手続の違法の有無、

程度をも十分考慮してこれを判断ずる必要がある

(最高裁昭和60年(あ)第427号同61年4月25日

第二小法廷判決・刑集40巻3号215頁参照)。

 

そこで、まず、被告人に対する職務質問及び

その現場への留め置きという

一連の手続の違法の有無についてみる。

 

(一) 職務質問を開始した当時、被告人には

覚せい剤使用の嫌疑があったほか、

幻覚の存在や周囲の状況を正しく認識する能力の減退など

覚せい剤中毒をうかがわせる異常な言動が見受けられ、かつ、

道路が積雪により滑りやすい状態にあったのに、

被告人が自動車を発進させるおそれがあったから、

前記の被告人運転車両のエンジンキーを取り上げた行為は、

警察官職務執行法2条1項に基づく

職務質問を行うため停止させる方法として

必要かつ相当な行為であるのみならず、

道路交通法67条3項に基づき交通の危険を防止するため採った

必要な応急の措置に当たるということができる。

 

(二)これに対し、その後被告人の身体に対する

捜索差押許可状の執行が開始されるまでの間、

警察官が被告人による運転を阻止し、約6時間半以上も被告人を

本件現場に留め置いた措置は、当初は前記のとおり適法性を有しており、

被告人の覚せい剤使用の嫌疑が濃厚になっていたことを考慮しても、

被告人に対する任意同行を求めるための説得行為としては

その限度を超え、被告人の移動の自由を長時間にわたり奪った点において、

任意捜査として許容される範囲を

逸脱したものとして違法といわざるを得ない。

 

しかし、右職務質問の過程においては、警察官が行使した有形力は、

エンジンキーを取り上げてこれを返還せず、あるいは、

エンジンキーを持った被告人が車に乗り込むのを阻止した程度であって、

さほど強いものでなく、被告人に運転させないため

必要最小限度の範囲にとどまるものといえる。

 

また、路面が積雪により滑りやすく、被告人自身、

覚せい剤中毒をうかがわせる異常な言動を繰り返していたのに、

被告人があくまで磐越自動車道で

f方面に向かおうとしていたのであるから、

任意捜査の面だけでなく、交通危険の防止という交通警察の面からも、

被告人の運転を阻止する必要性が高かったというべきである。

 

しかも、被告人が、自ら運転することに固執して、

他の方法による任意同行をかたくなに拒否するという態度を

取り続けたことを考慮すると、結果的に警察官による説得が

長時間に及んだのもやむを得なかった面があるということができ、

右のような状況からみて、警察官に当初から

違法な留め置きをする意図があったものとは認められない。

 

これら諸般の事情を総合してみると、前記のとおり、

警察官が、早期に令状を請求することなく長時間にわたり

被告人を本件現場に留め置いた措置は

違法であるといわざるを得ないが、

その違法の程度はいまだ令状主義の

精神を没却するような重大なものとはいえない

 

次に、強制採尿手続の違法の有無についてみる。

 

(一) 記録によれば、強制採尿令状発付請求に当たっては、

職務質問開始から午後一時すぎころまでの

被告人の動静を明らかにする資料が

疎明資料として提出されたものと推認することができる。

 

そうすると、本件の強制採尿令状は、

被告人を本件現場に留め置く措置が違法とされるほど

長期化する前に収集された疎明資料に基づき

発付されたものと認められ、

その発付手続に違法があるとはいえない。

 

身柄を拘束されていない被疑者を採尿場所へ

任意に同行することが事実上不可能であると認められる場合には、

強制採尿令状の効力として、採尿に適する最寄りの場所まで

被疑者を連行することができ、その際、

必要最小限度の有形力を

行使することができるものと解するのが相当である。

 

けだし、そのように解しないと、

強制採尿令状の目的を達することができないだけでなく、

このような場合に右令状を発付する裁判官は、

連行の当否を含めて審査し、右令状を

発付したものとみられるからである。

 

その場合、右令状に、被疑者を採尿に適する最寄りの場所まで

連行することを許可する旨を記載することができることはもとより、

被疑者の所在場所が特定しているため、

そこから最も近い特定の採尿場所を指定して、

そこまで連行することを許可する旨を

記載することができることも、明らかである。

 

本件において、被告人を任意に採尿に適する場所まで

同行することが事実上不可能であったことは、

前記のとおりであり、連行のために必要限度を超えて被疑者を

拘束したり有形力を加えたものとはみられない。

 

また、前記病院における強制採尿手続にも、

違法と目すべき点は見当たらない。

したがって、本件強制採尿手続自体に

違法はないというべきである。

 

以上検討したところによると、

本件強制採尿手続に先行する職務質問及び被告人の

本件現場への留め置きという手続には

違法があるといわなければならないが、

その違法自体は、いまだ重大なものとはいえないし、

本件強制採尿手続自体には違法な点はないことからすれば、

職務質問開始から強制採尿手続に至る一連の手続を

全体としてみた場合に、その手続全体を違法と評価し、

これによって得られた証拠を被告人の罪証に供することが、

違法捜査抑制の見地から相当でないとも認められない。

 

そうであるとすると、被告人から採取された尿に

関する鑑定書の証拠能力を肯定することができ、

これと同旨の原判断は、結論において正当である。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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