特別背任罪における取締役としての任務違背

(平成21年11月9日最高裁)

事件番号  平成18(あ)2057

 

この裁判では、銀行の代表取締役頭取が,

実質倒産状態にある融資先企業グループの各社に対し,

客観性を持った再建・整理計画もないまま,

赤字補てん資金等を実質無担保で追加融資したこと行為について,

裁判所が特別背任罪における取締役としての

任務違背についての見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

銀行の取締役が負うべき注意義務については,

一般の株式会社取締役と同様に,

受任者の善管注意義務(民法644条)及び

忠実義務(平成17年法律第87号による改正前の

商法254条の3,会社法355条)を基本としつつも,

いわゆる経営判断の原則が適用される余地がある。

 

しかし,銀行業が広く預金者から資金を集め,

これを原資として企業等に融資することを本質とする免許事業であること,

銀行の取締役は金融取引の専門家であり,

その知識経験を活用して融資業務を行うことが期待されていること,

万一銀行経営が破たんし,あるいは危機にひんした場合には

預金者及び融資先を始めとして社会一般に広範かつ

深刻な混乱を生じさせること等を考慮すれば,

融資業務に際して要求される銀行の取締役の注意義務の程度は

一般の株式会社取締役の場合に比べ高い水準のものであると解され,

所論がいう経営判断の原則が適用される余地は

それだけ限定的なものにとどまるといわざるを得ない。

したがって,銀行の取締役は,融資業務の実施に当たっては,

元利金の回収不能という事態が生じないよう,

債権保全のため,融資先の経営状況,資産状態等を調査し,

その安全性を確認して貸付を決定し,原則として確実な担保を徴求する等,

相当の措置をとるべき義務を有する。

 

例外的に,実質倒産状態にある企業に対する支援策として

無担保又は不十分な担保で追加融資をして再建又は

整理を目指すこと等があり得るにしても,

これが適法とされるためには客観性を持った再建・整理計画と

これを確実に実行する銀行本体の強い経営体質を必要とするなど,

その融資判断が合理性のあるものでなければならず,

手続的には銀行内部での明確な計画の策定とその正式な承認を欠かせない。

 

これを本件についてみると,Dグループは,

本件各融資に先立つ平成6年3月期において実質倒産状態にあり,

グループ各社の経営状況が改善する見込みはなく,

既存の貸付金の回収のほとんど唯一の方途と

考えられていたG地区の開発事業も

その実現可能性に乏しく,仮に実現したとしてもその採算性にも

多大の疑問があったことから,既存の貸付金の返済は期待できないばかりか,

追加融資は新たな損害を発生させる危険性のある状況にあった

 

被告人A及び同Bは,そのような状況を認識しつつ,

抜本的な方策を講じないまま,実質無担保の本件各追加融資を

決定,実行したのであって,上記のような客観性を持った

再建・整理計画があったものでもなく,

所論の損失極小化目的が明確な形で存在したともいえず,

総体としてその融資判断は著しく合理性を欠いたものであり,

銀行の取締役として融資に際し求められる債権保全に係る義務に

違反したことは明らかである。

 

そして,両被告人には,同義務違反の認識もあったと認められるから,

特別背任罪における取締役としての任務違背があったというべきである。

これと同旨の原判断は正当である。

 

全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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