ネスレ日本事件(懲戒権の濫用)

(平成18年10月6日最高裁)

 

外資系食品メーカーY社の工場勤務のXとX2は、

体調不良による欠勤を

有給休暇に振り替えたいと申し出たところ、

上司に拒否されました。

これを不服としたXらは上司に抗議し、

その際、上司の腹部等に暴行を与え負傷を負わせました。

Y社は、2人を懲戒解雇にすることを検討しましたが、

警察の捜査の結果を受けて判断をすることとし、

処分を保留としました。

 

7年後に2人は不起訴処分となりました。

 

Y会社は、Xらに所定の日までに

退職届が提出されれば、

自己都合退職とし退職金を支給するが、

提出されなかったときは、

懲戒解雇する旨の論旨退職処分としました。

 

Xらは、退職願を提出しなかったため、

Y社から懲戒解雇されました。

 

Xらは、本件懲戒解雇は権利の濫用であり、無効であるとして、

Y社に対して労働契約上の従業員たる地位に

あることの確認を求めました。

 

1審はXの請求を認容し、原審は、解雇は有効であるとして、

Xの請求を棄却し、Xが上告しました。

 

最高裁判所の見解

使用者の懲戒権の行使は,企業秩序維持の観点から

労働契約関係に基づく使用者の権能として行われるものであるが、

就業規則所定の懲戒事由に該当する事実が存在する場合であっても、

当該具体的事情の下において,それが客観的に合理的な理由を欠き、

社会通念上相当なものとして是認することができないときには、

権利の濫用として無効になると解するのが相当である。

 

本件各事件は職場で就業時間中に管理職に対して行われた暴行事件であり、

被害者である管理職以外にも目撃者が存在したのであるから、

上記の捜査の結果を待たずともY社において

Xらに対する処分を決めることは十分に可能であったものと考えられ、

本件において上記のように長期間にわたって

懲戒権の行使を留保する合理的な理由は見いだし難い。

 

しかも,使用者が従業員の非違行為について

捜査の結果を待ってその処分を検討することとした場合においてその

捜査の結果が不起訴処分となったにもかかわらず、

被上告人が上告人らに対し実質的には懲戒解雇処分に等しい

本件諭旨退職処分のような重い懲戒処分を行うことは、

その対応に一貫性を欠くものといわざるを得ない。

 

本件各事件から7年以上経過した後にされた本件諭旨退職処分は、

原審が事実を確定していない本件各事件以外の懲戒解雇事由について

被上告人が主張するとおりの事実が存在すると仮定しても、

処分時点において企業秩序維持の観点から

そのような重い懲戒処分を必要とする客観的に

合理的な理由を欠くものといわざるを得ず、

社会通念上相当なものとして是認することはできない

 

そうすると、本件諭旨退職処分は

権利の濫用として無効というべきであり、

本件諭旨退職処分による懲戒解雇は

その効力を生じないというべきである。

 

全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

 

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