第二鳩タクシー事件(不当労働行為救済制度の趣旨・目的)

(昭和52年 2月23日 最高裁)事件番号  昭和45(行ツ)60

 

タクシー業等を営むX社の運転手のAら(B労働組合の組合員)は、

人員過剰等を理由に解雇され、AらとB労働組合は、Y労働委員会に

不当労働行為の救済を申し立て、

Yは不当労働行為の成立を認めて、原職復帰命令を発し、

同時に中間収入を控除しないでバックペイの支払いも命じました。

 

X社は、バックペイの全額支払いを命じた部分の取消しを求めて

訴えを提起しました。

 

一審、原審ともに、Yの救済命令は、原状回復という

救済命令の範囲を超えているとして、これを取消し、

Yが上告しました。

 

最高裁判所の見解

労働組合法27条に定める労働委員会の救済命令制度は、

労働者の団結権及び団体行動権の保護を目的とし、

これらの権利を侵害する使用者の一定の行為を不当労働行為として

禁止した法7条の規定の実効性を担保するために

設けられたものであるところ、

法が、右禁止規定の実効性を担保するために、

使用者の右規定違反行為に対して

労働委員会という行政機関による救済命令の方法を採用したのは、

使用者による組合活動侵害行為によって

生じた状態を右命令によって直接是正することにより、

正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、

確保を図るとともに、

使用者の多様な不当労働行為に対してあらかじめ

その是正措置の内容を具体的に特定しておくことが

困難かつ不適当であるため、

労使関係について専門的知識経験を有する労働委員会に対し、

その裁量により、個々の事案に応じた適切な是正措置を決定し、

これを命ずる権限をゆだねる趣旨に出たものと解される。

 

このような労働委員会の裁量権はおのずから広きにわたることとなるが、

もとより無制限であるわけではなく、右の趣旨、

目的に由来する一定の限界が存するのであって、

この救済命令は、不当労働行為による被害の救済としての

性質をもつものでなければならず、このことから導かれる

一定の限界を超えることはできないものといわなければならない。

 

しかし、法が、右のように、

労働委員会に広い裁量権を与えた趣旨に徴すると、

訴訟において労働委員会の救済命令の内容の

適応性が争われる場合においても、

裁判所は、労働委員会の右裁量権を尊重し、

その行使が右の趣旨、目的に照らして是認される範囲を超え、

又は著しく不合理であって濫用にわたると認められるものでない限り、

当該命令を違法とすべきではないのである

 

法7条1号に違反する労働者の解雇に対する

救済命令の内容について考えてみると、

法が正当な組合活動をした故をもってする解雇を

特に不当労働行為として禁止しているのは、

右解雇が、一面において、

当該労働者個人の雇用関係上の権利ないしは

利益を侵害するものであり、他面において、

使用者が右の労働者を事業所から排除することにより、

労働者らによる組合活動一般を

抑圧ないしは制約する故なのであるから、

その救済命令の内容は、被解雇者に対する侵害に基づく

個人的被害を救済するという観点からだけではなく、

あわせて、組合活動一般に対する侵害の面をも考慮し、

このような侵害状態を除去、是正して

法の所期する正常な集団的労使関係秩序を

回復、確保するという観点からも、

具体的に、決定されなければならないのである。

 

原審の適法に確定したところによれば、Aらは、

本件不当労働行為である解雇を受けたのち、

他のタクシー会社に自動車運転手として雇用され、

賃金を得ていたものであるところ、多数意見は、

右の中間収入がタクシー会社における自動車運転手としての

就労によるものである点において従前の就労による賃金の取得と

性質、内容を同じくすることを理由として、

解雇による個人的な経済的被害の救済という観点からは

当然にその控除を考慮すべきものとし、

また、当時のタクシー業界における

運転手の他会社への転職が比較的頻繁かつ容易であり、

本件においても前記上告補助参加人らが解雇後比較的短期間内に

他に就職していること等の事実を挙げて、

組合活動一般に対する侵害除去の観点からも、

解雇による被解雇者の打撃及び労働者らの

組合活動意思に対する制約的効果が

いずれも比較的軽少であったものと認め、これらの点から、

他に特段の理由が示されない限り、バックペイの金額の決定にあたって

右中間収入の控除を全く不問に付することは、

労働委員会の裁量権行使の合理的限界を超えているものと断じている。

しかしながら、われわれは多数意見のように

被解雇者の個人的な経済的被害の救済という観点を

持ち出すことに反対であるのみならず、

右の中間収入の取得を従前の就労の継続による

賃金の取得と同等視すべきかどうか、これによりどの程度被害の除去が

あったとみるべきかについても、われわれは、前述のように、

右のような両労務の性質、内容の同一性や転職の容易性、

頻繁性のほかに、なおさまざまな事情を考慮して

判断されるべきものと解するのであり、

われわれの見解においては、多数意見の指摘する諸点から直ちに、

バックペイの額の決定にあたって

右の中間収入の額を控除しないこととした

上告委員会の決定が、上記諸事情を

公正、誠実に考慮した結果の判断とは考えられないほど

明白な不合理性を有するものと断ずることはできない

 

全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

 

労働法判例の要点をわかりやすく解説コーナートップへ


行政書士試験にわずか147日で合格した勉強法

行政書士受験生にオススメのAmazon Kindle Unlimitedで読める本


スポンサードリンク

関連記事