国税犯則事件の調査手続と供述拒否権

( 昭和59年3月27日裁判所)

事件番号  昭和58(あ)180

 

確定申告書に虚偽の記載をし、所得税を免れた被告人が、

収税官吏による質問顛末書の作成に際し、

供述拒否権の告知を受けなかったことから、

同顛末書は憲法38条1項に違反し、収集された証拠であるとして、

その証拠能力を争いました。

 

最高裁判所の見解

国税犯則取締法は、収税官吏に対し、犯則事件の調査のため、

犯則嫌疑者等に対する質問のほか、

検査、領置、臨検、捜索又は差押等をすること

(以下これらを総称して「調査手続」という。)を認めている。

 

しかして、右調査手続は、国税の公平確実な賦課徴収という

行政目的を実現するためのものであり、その性質は、

一種の行政手続であって、刑事手続ではないと解されるが、

その手続自体が捜査手続と類似し、

これと共通するところがあるばかりでなく、

右調査の対象となる犯則事件は、間接国税以外の国税については

同法12条ノ2又は同法17条各所定の告発により被疑事件となって

刑事手続に移行し、告発前の右調査手続において

得られた質問顛末書等の資料も、

右被疑事件についての捜査及び訴追の証拠資料として

利用されることが予定されているのである。

 

このような諸点にかんがみると、右調査手続は、

実質的には租税犯の捜査としての機能を営むものであって、

租税犯捜査の特殊性、技術性等から専門的知識経験を有する

収税官吏に認められた特別の捜査手続としての

性質を帯有するものと認められる。

 

したがって、国税犯則取締法上の質問調査の手続は、

犯則嫌疑者については、自己の刑事上の責任を

問われるおそれのある事項についても

供述を求めることになるもので、

「実質上刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく

作用を一般的に有する」ものというべきであって、

前記昭和47年等の当審大法廷判例及びその趣旨に照らし、

憲法38条1項の規定による供述拒否権の保障が

及ぶものと解するのが相当である。

 

憲法38条1項は供述拒否権の告知を義務づけるものではなく

右規定による保障の及ぶ手続について

供述拒否権の告知を要するものとすべきかどうかは、

その手続の趣旨・目的等により決められるべき

立法政策の問題と解されるところから、

国税犯則取締法に供述拒否権告知の規定を欠き、

収税官吏が犯則嫌疑者に対し同法1条の規定に基づく

質問をするにあたりあらかじめ

右の告知をしなかったからといって、

その質問手続が憲法38条1項に違反することとなるものでない。

 

全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

 

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