河川管理についての瑕疵の有無の判断基準

(昭和59年1月26日最高裁)

事件番号  昭和53(オ)492

 

この裁判では、

河川管理についての瑕疵の有無の判断基準について

裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

河川は、本来自然発生的な公共用物であって、

管理者による公用開始のための特別の行為を要することなく

自然の状態において公共の用に供される物であるから、

通常は当初から人工的に安全性を備えた物として設置され

管理者の公用開始行為によって公共の用に供される道路

その他の営造物とは性質を異にし、

もともと洪水等の自然的原因による

災害をもたらす危険性を内包しているものである。

 

したがって、河川の管理は、道路の管理等とは異なり、

本来的にかかる災害発生の危険性をはらむ河川を対象として

開始されるのが通常であって、河川の通常備えるべき安全性の確保は、

管理開始後において、予想される洪水等による災害に対処すべく、

堤防の安全性を高め、河道を拡幅・掘削し、流路を整え、

又は放水路、ダム、遊水池を設置するなどの治水事業を行うことによって

達成されていくことが当初から

予定されているものということができるのである。

 

この治水事業は、もとより一朝一夕にして成るものではなく、

しかも全国に多数存在する未改修河川及び改修の不十分な河川について

これを実施するには莫大な費用を必要とするものであるから、

結局、原則として、議会が国民生活上の他の諸要求との調整を図りつつ

その配分を決定する予算のもとで、各河川につき

過去に発生した水害の規模、頻度、発生原因、被害の性質等のほか、

降雨状況、流域の自然的条件及び開発その他土地利用の状況、

各河川の安全度の均衡等の諸事情を総合勘案し、

それぞれの河川についての改修等の必要性・緊急性を比較しつつ、

その程度の高いものから逐次これを実施していくほかはない。

 

また、その実施にあたっては、

当該河川の河道及び流域全体について

改修等のための調査・検討を経て計画を立て、

緊急に改修を要する箇所から段階的に、また、原則として

下流から上流に向けて行うことを要するなどの技術的な制約もあり、

更に、流域の開発等による雨水の流出機構の変化、地盤沈下、

低湿地域の宅地化及び地価の高騰等による治水用地の取得難

その他の社会的制約を伴うことも看過することはできない。

 

しかも、河川の管理においては、道路の管理における

危険な区間の一時閉鎖等のような簡易、臨機的な

危険回避の手段を採ることもできないのである。

 

河川の管理には、以上のような諸制約が内在するため、

すべての河川について通常予測し、かつ、

回避しうるあらゆる水害を未然に

防止するに足りる治水施設を完備するには、

相応の期間を必要とし、未改修河川又は

改修の不十分な河川の安全性としては、

右諸制約のもとで一般に施行されてきた

治水事業による河川の改修、整備の過程に対応する

いわば過渡的な安全性をもって足りるものとせざるをえないのであって、

当初から通常予測される災害に対応する安全性を備えたものとして

設置され公用開始される道路その他の営造物の管理の場合とは、

その管理の瑕疵の有無についての判断の基準も

おのずから異なったものとならざるをえない

 

当該河川の管理についての瑕疵の有無は、

過去に発生した水害の規模、発生の頻度、発生原因、被害の性質、

降雨状況、流域の地形その他の自然的条件、土地の利用状況

その他の社会的条件、改修を要する緊急性の有無及び

その程度等諸般の事情を総合的に考慮し、

前記諸制約のもとでの同種・同規模の河川の管理の

一般水準及び社会通念に照らして是認しうる安全性を

備えていると認められるかどうかを基準として

判断すべきであると解するのが相当である。

 

既に改修計画が定められ、これに基づいて

現に改修中である河川については、

右計画が全体として右の見地からみて

格別不合理なものと認められないときは、

その後の事情の変動により当該河川の未改修部分につき

水害発生の危険性が特に顕著となり、当初の計画の時期を繰り上げ、

又は工事の順序を変更するなどして

早期の改修工事を施行しなければならないと認めるべき

特段の事由が生じない限り、右部分につき改修が

いまだ行われていないとの一事をもって

河川管理に瑕疵があるとすることはできないと解すべきである。

 

そして、右の理は、人口密集地域を流域とする

いわゆる都市河川の管理についても、

前記の特質及び諸制約が存すること自体には

異なるところがないのであるから、

一般的にはひとしく妥当するものというべきである。

 

全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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