外形信頼と民法109条

(昭和35年10月21日最高裁)

事件番号  昭和31(オ)835

 

この裁判では、

外形信頼と民法109条について

裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

およそ、一般に、他人に自己の名称、商号等の使用を許し、

もしくはその者が自己のために取引する権限ある旨を表示し、

もつてその他人のする取引が

自己の取引なるかの如く見える外形を作り出した者は、

この外形を信頼して取引した第三者に対し、

自ら責に任ずべきであって、このことは、

民法109条、商法23条等の法理に照らし、

これを是認することができる。

 

本件において、東京地方裁判所は、

「厚生部」が「東京地方裁判所厚生部」という名称を用い、

その名称のもとに他と取引することを認め、

その職員Dらをして「厚生部」の事務を総務課厚生係にあてた

部室を使用して処理することを

認めていたことは前記のとおりである。

 

ところで、戦後、社会福祉の思想が普及するとともに、

当時の経済事情と相まって、会社銀行等の事業体は競って

職員のための厚生事業や厚生施設の拡充に意を用いるにいたった。

 

これは当時の一般的社会的風潮であったと云ってよい。

官庁においても、遅ればせながら、

当然その影響を受けたのであって、

前示のごとく昭和23年にいたり東京地方裁判所事務局総務課に

厚生係がおかれたのも、この影響の一たんを示すものに外ならない。

 

このような社会情勢のもとにおいて、

一般に官庁の部局をあらわす文字である「部」と名付けられ、

裁判所庁舎の一部を使用し、現職の職員が事務を執っている

「厚生部」というものが存在するときは、

一般人は法令によりそのような部局が

定められたものと考えるのがむしろ当然であるから、

「厚生部」は、東京地方裁判所の一部局としての

表示力を有するものと認めるのが相当である。

 

殊に、事務局総務課に厚生係がおかれ、これと同じ部室において、

同じ職員によって事務の処理がなされている場合に、

厚生係は裁判所の一部局であるが、「厚生部」はこれと異なり、

裁判所とは関係のないものであると一般人をして認識せしめることは、

到底難きを強いるものであって、取引の相手方としては、

部と云おうが係と云おうが、これを同一のものと観るに相違なく、

これを咎めることはできないのである。

 

東京地方裁判所当局が、

「厚生部」の事業の継続処理を認めた以上、

これにより、東京地方裁判所は、「厚生部」のする取引が

自己の取引なるかの如く見える外形を作り出したものと認めるべきであり、

若し、「厚生部」の取引の相手方である上告人が

善意無過失でその外形に信頼したものとすれば、

同裁判所は上告人に対し本件取引につき

自ら責に任ずべきものと解するのが相当である。

 

もっとも、公務員の権限は、

法令によって定められているのであり、

国民はこれを知る義務を負うものであるから、

表見代理等の法規を類推適用して官庁自体の責を

問うべき余地はないとの見解をとる者なきを保し難いが、

官庁といえども経済活動をしないわけではなく、そして、

右の法理は、取引の安全のために善意の相手方を

保護しようとするものであるから、

官庁のなす経済活動の範囲においては、

善意の相手方を保護すべき必要は、

一般の経済取引の場合と少しも

異なるところはないといわなければならず、

現に当裁判所においても、村長の借入金受領行為につき、

民法110条の類推適用を認めた判例が存するのである。

 

要するに、東京地方裁判所は、本件取引につき

自らの取引なるかの如き外形を

作り出したものと認めうるのであるから、

原審としては、よろしくこの前提に立って、

上告人が果して善意無過失であったか否かを

さらに審理判断すべきものである。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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