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【行政判例】不法入国した外国人である原子爆弾被爆者と原子爆弾被爆者の医療等に関する法律 (昭和53年3月30日最高裁)

不法入国した外国人である原子爆弾被爆者と原子爆弾被爆者の医療等に関する法律

(昭和53年3月30日最高裁)

事件番号  昭和50(行ツ)98

 

この裁判では、

不法入国した外国人である原子爆弾被爆者についても

原子爆弾被爆者の医療等に関する法律が適用されるかについて

裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

原爆医療法は、被爆者の健康面に着目して公費により

必要な医療の給付をすることを中心とするものであって、

その点からみると、いわゆる社会保障法としての

他の公的医療給付立法と同様の性格を

もつものであるということができる。

 

しかしながら、被爆者のみを対象として

特に右立法がされた所以を理解するについては、

原子爆弾の被爆による健康上の障害がかつて例をみない

特異かつ深刻なものであることと並んで、

かかる障害が遡れば戦争という

国の行為によってもたらされたものであり、

しかも、被爆者の多くが今なお生活上一般の戦争被害者よりも

不安定な状態に置かれているという事実を見逃すことはできない。

 

原爆医療法は、このような特殊の戦争被害について

戦争遂行主体であった国が自らの責任により

その救済をはかるという一面をも有するものであり、

その点では実質的に国家補償的配慮が制度の根底にあることは、

これを否定することができないのである。

 

例えば、同法が被爆者の収入ないし資産状態のいかんを問わず

常に全額公費負担と定めていることなどは、

単なる社会保障としては合理的に説明しがたいところであり、

右の国家補償的配慮の一端を示すものであると認められる。

 

また、わが国の戦争被害に関する他の補償立法は、

補償対象者を日本国籍を有する者に限定し、

日本国籍の喪失をもつて権利消滅事由と定めているのが通例であるが、

原爆医療法があえてこの種の規定を設けず、

外国人に対しても同法を適用することとしているのは、

被爆による健康上の障害の特異性と重大性のゆえに、

その救済について内外人を区別すべきではないとしたものにほかならず、

同法が国家補償の趣旨を併せもつものと

解することと矛盾するものではない。

 

このような原爆医療法の複合的性格からすれば、

一般の社会保障法についてこれを外国人に適用する場合には、

そのよって立つ社会連帯と相互扶助の理念から、

わが国内に適法な居住関係を有する外国人のみを対象者とすることが

一応の原則であるとしても、原爆医療法について

当然に同様の原則が前提とされているものと解すべき根拠はない。

 

かえって、同法が被爆者の置かれている特別の健康状態に着目して

これを救済するという人道的目的の立法であり、

その3条1項にはわが国に居住地を有しない被爆者をも

適用対象者として予定した規定があることなどから考えると、

被爆者であってわが国内に現在する者である限りは、

その現在する理由等のいかんを問うことなく、

広く同法の適用を認めて救済をはかることが、

同法のもつ国家補償の趣旨にも適合するものというべきである。

 

これをわが国に不法入国した外国人被爆者の場合について

更にふえんすれば、右の者が

わが国の入国管理法令上国内に留まることを許されず、

すみやかに退去強制の措置を受けるべきものであることは、

いうまでもない。

 

しかしながら、前述のような被爆者の救済という観点を重視するならば、

不法入国した被爆者も現に救済を必要とする

特別の健康状態に置かれている点では

他の一般被爆者と変わるところがないのであって、

不法入国者であるがゆえにこれをかえりみないことは、

原爆医療法の人道的目的を没却するものといわなければならない。

 

もっとも、不法入国した被爆者が同法の適用を受けることができないとしても、

わが国において自費により必要な診察や治療を受けることまでが

できないわけではないが、その資力のない者にとっては、

同法の適用を拒否されることが医療の機会そのものを

失うことにつながりかねないのである。

 

他方、不法入国した被爆者に同法の適用を認めた場合でも、

その者に対し入国管理法令に基づく退去強制手続をとることは

なんら妨げられるものではないから、右の適用を認めることが、

外国人被爆者の不法入国を助長することになるとか、

入国管理制度の適正な執行を阻害することになるとかを危惧することは、

当たらないというべきであるし、また、右退去強制により、

不法入国した被爆者が短期間しか同法の給付を受けられない場合が

ありうるとしても、そのことだけで、

その間の給付が全く無益又は無意味であったことに帰するものではない。

 

更に、一般的には、わが国に不法入国した外国人が

国民の税負担に依存する国の給付を権利として請求しうるとすることは、

極めて異例であるというべきであるが、

原爆医療法は、被爆者という

限られた範囲の者のみを対象とした特別の立法であり、

厳正な入国管理のもとでは少数である

不法入国者を対象者に含ませたからといって、

そのことによる国の財政上の負担はやむをえないとしなければならない。

 

このようにみてくると、不法入国者の取締りと

その者に対する原爆医療法の適用の有無とは

別個の問題として考えるべきものであって、

同法を外国人被爆者に適用するにあたり、

不法入国者を特に除外しなければならないとする

特段の実質的・合理的理由はなく、

その適用を認めることがよりよく同法の趣旨・目的に

そうものであることは前述のとおりであるから、

同法は不法入国した被爆者についても

適用されるものであると解するのが相当である。

 

全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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