学術研究者は、史跡の指定解除処分の取消しを訴求する原告適格を有するか

(平成元年6月20日最高裁)

事件番号  昭和58(行ツ)98

 

この裁判では、

指定史跡を研究対象としている学術研究者は、

当該史跡の指定解除処分の取消しを訴求する

原告適格を有するかについて

裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

所論の文化財享有権なる観念は、

いまだ法律上の具体的権利とは

認められないから、それが具体的権利であることを前提とする

所論違憲の主張は失当である。

 

原判決に所論の違法はなく、

論旨は採用することができない。

 

不適法な訴えにつき本案の判断をせずにこれを却下しても、

憲法32条に違反するものでないことは、

当裁判所の判例とするところである。

 

また、所論憲法31条違反の主張は、

本件訴えが適法であることを前提とするものであるが、

上告人らは本件史跡指定解除処分の取消しを

訴求する原告適格を有せず、

本件訴えが不適法であることは後述のとおりであるから、

右主張は、前提を欠き、失当である。

 

原判決に所論の違法はなく、

論旨は採用することができない。

 

本件史跡指定解除処分の根拠である

静岡県文化財保護条例(昭和36年静岡県条例第23号。

以下「本件条例」という。)は、文化財保護法(以下「法」という。)

98条2項の規定に基づくものであるが、

法により指定された文化財以外の

静岡県内の重要な文化財について、

保存及び活用のため必要な措置を講じ、

もって県民の文化的向上に資するとともに、

我が国文化の進歩に貢献することを目的としている(1条)。

 

本件条例において、静岡県教育委員会は、

県内の重要な記念物を県指定史跡等に指定することができ(29条1項)、

県指定史跡等がその価値を失った場合

その他特殊の理由があるときは、

その指定を解除することができる(30条1項)こととされている。

 

これらの規定並びに本件条例及び法の他の規定中に、

県民あるいは国民が史跡等の文化財の保存・活用から

受ける利益をそれら個々人の個別的利益として

保護すべきものとする趣旨を明記しているものはなく、また、

右各規定の合理的解釈によっても、

そのような趣旨を導くことはできない。

 

そうすると、本件条例及び法は、文化財の保存・活用から

個々の県民あるいは国民が受ける利益については、

本来本件条例及び法が

その目的としている公益の中に吸収解消させ、

その保護は、もっぱら右公益の実現を通じて

図ることとしているものと解される。

 

そして、本件条例及び法において、

文化財の学術研究者の学問研究上の利益の保護について

特段の配慮をしていると解しうる規定を見出すことはできないから、

そこに、学術研究者の右利益について、

一般の県民あるいは国民が文化財の保存・活用から

受ける利益を超えてその保護を図ろうとする趣旨を

認めることはできない。

 

文化財の価値は学術研究者の調査研究によって

明らかにされるものであり、

その保存・活用のためには学術研究者の協力を得ることが

不可欠であるという実情があるとしても、

そのことによって右の解釈が左右されるものではない。

 

また、所論が掲げる各法条は、

右の解釈に反する趣旨を有するものではない。

 

したがって、上告人らは、本件遺跡を研究の対象としてきた

学術研究者であるとしても、

本件史跡指定解除処分の取消しを求めるにつき

法律上の利益を有せず、

本件訴訟における原告適格を有しないといわざるをえない

 

右と同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、

原判決に所論の違法はない。

 

全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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