取締役の第三者に対する責任
(昭和44年11月26日最高裁)
事件番号 昭和39(オ)1175
この裁判では、
取締役の第三者に対する責任について
裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
法は、株式会社が経済社会において重要な地位を占めていること、
しかも株式会社の活動はその機関である
取締役の職務執行に依存するものであることを考慮して、
第三者保護の立場から、取締役において悪意または
重大な過失により右義務に違反し、
これによって第三者に損害を被らせたときは、
取締役の任務懈怠の行為と第三者の損害との間に
相当の因果関係があるかぎり、
会社がこれによって損害を被った結果、
ひいて第三者に損害を生じた場合であると、
直接第三者が損害を被った場合であるとを問うことなく、
当該取締役が直接に第三者に対し
損害賠償の責に任ずべきことを規定したのである。
以上のことは、取締役が
その職務を行なうにつき故意または過失により
直接第三者に損害を加えた場合に、一般不法行為の規定によって、
その損害を賠償する義務を負うことを妨げるものではないが、
取締役の任務懈怠により損害を受けた第三者としては、
その任務懈怠につき取締役の悪意または
重大な過失を主張し立証しさえすれば、
自己に対する加害につき故意または過失のあることを主張し
立証するまでもなく、商法266条ノ3の規定により、
取締役に対し損害の賠償を求めることができるわけであり、また、
同条の規定に基づいて第三者が取締役に対し
損害の賠償を求めることができるのは、
取締役の第三者への加害に対する故意または
過失を前提として会社自体が民法44条の規定によって
第三者に対し損害の賠償義務を負う場合に限る必要もないわけである。
株式会社の代表取締役は、自己のほかに、
他の代表取締役が置かれている場合、他の代表取締役は
定款および取締役会の決議に基づいて、また、
専決事項についてはその意思決定に基づいて、
業務の執行に当たるのであって、
定款に別段の定めがないかぎり、
自己と他の代表取締役との間に直接指揮監督の関係はない。
しかし、もともと、代表取締役は、
対外的に会社を代表し、対内的に業務全般の執行を
担当する職務権限を有する機関であるから、
善良な管理者の注意をもつて会社のため忠実にその職務を執行し、
ひろく会社業務の全般にわたって意を用いるべき
義務を負うものであることはいうまでもない。
したがって、少なくとも、代表取締役が、
他の代表取締役その他の者に会社業務の一切を任せきりとし、
その業務執行に何等意を用いることなく、
ついにはそれらの者の不正行為ないし
任務懈怠を看過するに至るような場合には、
自らもまた悪意または重大な過失により
任務を怠ったものと解するのが相当である。
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