強制採尿の適法性

(昭和55年10月23日最高裁)

事件番号  昭和54(あ)429

 

この裁判では、

強制採尿の適法性について

裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

尿を任意に提出しない被疑者に対し、強制力を用いて

その身体から尿を採取することは、

身体に対する侵入行為であるとともに

屈辱感等の精神的打撃を与える行為であるが、

右採尿につき通常用いられるカテーテルを

尿道に挿入して尿を採取する方法は、

被採取者に対しある程度の肉体的不快感ないし

抵抗感を与えるとはいえ、

医師等これに習熟した技能者によって

適切に行われる限り、身体上ないし

健康上格別の障害をもたらす危険性は

比較的乏しく、仮に障害を起こすことがあっても

軽微なものにすぎないと考えられるし、また、

右強制採尿が被疑者に与える屈辱感等の精神的打撃は、

検証の方法としての身体検査においても

同程度の場合がありうるのであるから、

被疑者に対する右のような方法による

強制採尿が捜査手続上の強制処分として

絶対に許されないとすべき理由はなく、

被疑事件の重大性、嫌疑の存在、当該証拠の重要性と

その取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、

犯罪の捜査上真にやむをえないと認められる場合には、

最終的手段として、適切な法律上の手続を経て

これを行うことも許されてしかるべきであり、ただ、

その実施にあたっては、被疑者の身体の安全と

その人格の保護のため十分な配慮が

施されるべきものと解するのが相当である。

 

そこで、右の適切な法律上の手続について考えるのに、

体内に存在する尿を犯罪の証拠物として強制的に採取する行為は

捜索・差押の性質を有するものとみるべきであるから、

捜査機関がこれを実施するには

捜索差押令状を必要とすると解すべきである。

 

ただし、右行為は人権の侵害にわたるおそれがある点では、

一般の捜索・差押と異なり、検証の方法としての

身体検査と共通の性質を有しているので、

身体検査令状に関する刑訴法218条5項が

右捜索差押令状に準用されるべきであって、

令状の記載要件として強制採尿は医師をして

医学的に相当と認められる方法により

行わせなければならない旨の条件の記載が

不可欠であると解さなければならない

 

これを本件についてみるのに、

覚せい剤取締法41条の2第1項3号、

19条に該当する覚せい剤自己使用の罪は

10年以下の懲役刑に処せられる相当重大な犯罪であること、

被告人には覚せい剤の自己使用の嫌疑が認められたこと、

被告人は犯行を徹底的に否認していたため証拠として

被告人の尿を取得する必要性があったこと、

被告人は逮捕後尿の任意提出を頑強に拒み続けていたこと、

捜査機関は、従来の捜査実務の例に従い、強制採尿のため、

裁判官から身体検査令状及び鑑定処分許可状の発付を受けたこと、

被告人は逮捕後33時間経過してもなお尿の任意提出を拒み、

他に強制採尿に代わる適当な手段は存在しなかったこと、

捜査機関はやむなく右身体検査令状及び鑑定処分許可状に基づき、

医師に採尿を嘱託し、同医師により適切な医学上の配慮の下に

合理的かつ安全な方法によつて採尿が実施されたこと、

右医師による採尿に対し被告人が激しく抵抗したので

数人の警察官が被告人の身体を押えつけたが、

右有形力の行使は採尿を安全に実施するにつき

必要最小限度のものであったことが認められ、

本件強制採尿の過程は、令状の種類及び形式の点については

問題があるけれども、それ以外の点では、

法の要求する前記の要件をすべて充足していることが明らかである。

 

令状の種類及び形式の点では、

本来は前記の適切な条件を付した捜索差押令状が

用いられるべきであるが、本件のように従来の実務の大勢に従い、

身体検査令状と鑑定処分許可状の両者を取得している場合には、

医師により適当な方法で採尿が実施されている以上、

法の実質的な要請は十分充たされており、

この点の不一致は技術的な形式的不備であって、

本件採尿検査の適法性をそこなうものではない。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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