被疑者の緊急逮捕に着手する以前その不在中になされた捜索差押は適法か

(昭和36年6月7日最高裁)

事件番号  昭和31(あ)2863

 

この裁判では、

被疑者の緊急逮捕に着手する以前

その不在中になされた捜索差押は適法かについて

裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

職権により調査するに、憲法35条は、同33条の場合には

令状によることなくして捜索、押収を

することができるものとしているところ、

いわゆる緊急逮捕を認めた刑訴210条の規定が

右憲法33条の趣旨に反しないことは、当裁判所の判例

(昭和26年(あ)第3953号、同30年12月14日大法廷判決、

刑集9巻13号2760頁)とするところである。

 

同35条が右の如く捜索、押収につき

令状主義の例外を認めているのは、

この場合には、令状によることなくその逮捕に関連して

必要な捜索、押収等の強制処分を行なうことを認めても、

人権の保障上格別の弊害もなく、且つ、

捜査上の便益にも適なうことが

考慮されたによるものと解されるのであって、

刑訴220条が被疑者を緊急逮捕する場合において必要があるときは、

逮捕の現場で捜索、差押等をすることができるものとし、且つ、

これらの処分をするには令状を必要としない旨を規定するのは、

緊急逮捕の場合について憲法35条の趣旨を

具体的に明確化したものに外ならない。

 

もっとも、右刑訴の規定について解明を要するのは、

「逮捕する場合において」と「逮捕の現場で」の意義であるが、

前者は、単なる時点よりも幅のある逮捕する際をいうのであり、

後者は、場所的同一性を意味するに

とどまるものと解するを相当とし、なお、

前者の場合は、逮捕との時間的接着を必要とするけれども、

逮捕着手時の前後関係は、これを問わないものと解すべきであって、

このことは、同条1項1号の規定の趣旨からも窺うことができるのである。

 

従って、例えば、緊急逮捕のため被疑者方に赴いたところ、

被疑者がたまたま他出不在であっても、

帰宅次第緊急逮捕する態勢の下に捜索、差押がなされ、且つ、

これと時間的に接着して逮捕がなされる限り、その捜索、差押は、

なお、緊急逮捕する場合その現場でなされたとするのを妨げるものではない

 

そして緊急逮捕の現場での捜索、差押は、

当該逮捕の原由たる被疑事実に関する

証拠物件を収集保全するためになされ、且つ、

その目的の範囲内と認められるものである以上、

同条1項後段のいわゆる「被疑者を逮捕する場合において必要があるとき」

の要件に適合するものと解すべきである。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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