量刑判断の方法

(平成26年7月24日最高裁)

事件番号  平成25(あ)689

 

この裁判では、

量刑判断の方法について

裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

我が国の刑法は,一つの構成要件の中に

種々の犯罪類型が含まれることを前提に幅広い法定刑を定めている。

 

その上で,裁判においては,

行為責任の原則を基礎としつつ,

当該犯罪行為にふさわしいと考えられる刑が言い渡されることとなるが,

裁判例が集積されることによって,

犯罪類型ごとに一定の量刑傾向が示されることとなる。

 

そうした先例の集積それ自体は

直ちに法規範性を帯びるものではないが,

量刑を決定するに当たって,

その目安とされるという意義をもっている。

 

量刑が裁判の判断として是認されるためには,

量刑要素が客観的に適切に評価され,結果が

公平性を損なわないものであることが求められるが,

これまでの量刑傾向を視野に入れて判断がされることは,

当該量刑判断のプロセスが適切なものであったことを

担保する重要な要素になると考えられるからである。

 

この点は,裁判員裁判においても等しく妥当するところである。

 

裁判員制度は,刑事裁判に国民の視点を入れるために導入された。

 

したがって,量刑に関しても,裁判員裁判導入前の

先例の集積結果に相応の変容を与えることがあり得ることは

当然に想定されていたということができる。

 

その意味では,裁判員裁判において,

それが導入される前の量刑傾向を厳密に

調査・分析することは求められていないし,

ましてや,これに従うことまで求められているわけではない。

 

しかし,裁判員裁判といえども,

他の裁判の結果との公平性が保持された

適正なものでなければならないことはいうまでもなく,

評議に当たっては,これまでのおおまかな量刑の傾向を

裁判体の共通認識とした上で,

これを出発点として当該事案にふさわしい評議を

深めていくことが求められているというべきである。

 

こうした観点に立って,本件第1審判決をみると,

「同種事犯のほか死亡結果について故意が認められる事案等の

量刑傾向を参照しつつ,この種事犯におけるあるべき

量刑等について議論するなどして評議を尽くした」と判示されており,

この表現だけを捉えると,おおまかな量刑の傾向を出発点とした上で

評議を進めるという上記要請に沿って量刑が

決定されたようにも理解されないわけではない。

 

しかし,第1審判決は,引き続いて,検察官の求刑については,

本件犯行の背後事情である本件幼児虐待の悪質性と

被告人両名の態度の問題性を十分に評価していないとし,

量刑検索システムで表示される量刑の傾向については,

同システムの登録数が十分でなく

その判断の妥当性も検証できないとした上で,

本件のような行為責任が重大と考えられる児童虐待事犯に対しては,

今まで以上に厳しい罰を科すことが

法改正や社会情勢に適合するなどと説示して,

検察官の求刑を大幅に超過し,

法定刑の上限に近い宣告刑を導いている。

 

これによれば,第1審判決は,これまでの傾向に

必ずしも同調せず,そこから踏み出した重い量刑が

相当であると考えていることは明らかである。

 

もとより,前記のとおり,

これまでの傾向を変容させる意図を持って量刑を行うことも,

裁判員裁判の役割として直ちに否定されるものではない。

 

しかし,そうした量刑判断が公平性の観点からも

是認できるものであるためには,

従来の量刑の傾向を前提とすべきではない事情の存在について,

裁判体の判断が具体的,説得的に判示されるべきである。

 

これを本件についてみると,

指摘された社会情勢等の事情を本件の量刑に強く反映させ,

これまでの量刑の傾向から踏み出し,

公益の代表者である検察官の懲役10年という求刑を

大幅に超える懲役15年という量刑をすることについて,

具体的,説得的な根拠が示されているとはいい難い

 

その結果,本件第1審は,

甚だしく不当な量刑判断に至ったものというほかない

 

同時に,法定刑の中において選択の余地のある範囲内に

収まっているというのみで合理的な理由なく第1審判決の

量刑を是認した原判決は,甚だしく不当であって,

これを破棄しなければ著しく正義に反すると認められる

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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