無許可輸出罪の実行の着手
(平成26年11月7日最高裁)
事件番号 平成25(あ)1334
この裁判は、
関税法111条3項,1項1号の無許可輸出罪につき
実行の着手があるとされた事例です。
最高裁判所の見解
1,2審判決の認定及び記録によると,
本件の事実関係は,次のとおりである。
(1) Aは,平成18年2月頃から,氏名不詳者より,
日本から香港へのうなぎの稚魚の密輸出を持ちかけられ,
報酬欲しさに,これを引き受け,繰り返し密輸出を行っていたが,
その後,被告人らを仲間に勧誘した。
(2) 本件当時の成田国際空港における
日航の航空機への機内預託手荷物については,
チェックインカウンターエリア入口に設けられた
エックス線検査装置による保安検査が行われ,
検査が終わった手荷物には検査済みシールが貼付された。
また,同エリアは,当日の搭乗券,航空券を所持している
旅客以外は立入りできないよう,チェックインカウンター及び
仕切り柵等により周囲から区画されており,同エリアに入るには,
エックス線検査装置が設けられた入口を通る必要があった。
そして,チェックインカウンターの職員は,
同エリア内にある検査済みシールが貼付された荷物については,
保安検査を終了して問題がなかった手荷物と判断し,
そのまま機内預託手荷物として預かって航空機に積み込む扱いとなっていた。
一方,機内持込手荷物については,出発エリアの手前にある
保安検査場においてエックス線検査を行うため,
チェックインカウンターエリア入口での保安検査は行われていなかった。
(3) Aらによる密輸出の犯行手口は,
①衣類在中のダミーのスーツケースについて,
機内預託手荷物と偽って,同エリア入口で
エックス線検査装置による保安検査を受け,
そのスーツケースに検査済みシールを貼付してもらった後,
そのまま同エリアを出て,検査済みシールを剥がし,
②無許可での輸出が禁じられたうなぎの稚魚が
隠匿されたスーツケースについて,機内持込手荷物と偽って,
上記エックス線検査を回避して同エリアに入り,
先に入手した検査済みシールをそのスーツケースに貼付し,
③これをチェックインカウンターで機内預託手荷物として預け,
航空機に乗り込むなどというもので,被告人らは,
Aの指示で適宜役割分担をしていた。
(4) Aは,氏名不詳者から,
「本件当日に15か16ケースのうなぎの稚魚を
運んでもらいたい。そのため5人か6人を用意してほしい。」
などと依頼され,被告人,D,B及びEの4名について,
本件当日発の日航731便の搭乗予約をしていたが,前日になって,
「明日は2名で6ケースになった」旨伝えられ,
被告人らに対し,被告人,E及びDが本件スーツケース6個を
同エリア内に持ち込み,C(以下「C」という。)と
Bが香港までの運搬役を担当するよう指示した。Aは,
C分の同便の搭乗予約をしていなかったが,
他の予約分をCに切り替えるつもりでいた。
(5) 本件当日,A及び被告人を含む総勢6名は,
ダミーのスーツケースを持参して成田国際空港に赴き,
手分けして同エリア入口での保安検査を受け,
検査済みシール6枚の貼付を受けてこれを入手した。
そして,被告人らは,同空港で,氏名不詳者から
本件スーツケース6個を受け取り,1個ずつ携行して機内持込手荷物と
偽って同エリア内に持ち込んだ上,
手に入れていた検査済みシール6枚を
本件スーツケース6個にそれぞれ貼付した。
(6) その後,AとCは,本件スーツケースを1個ずつ携え,
日航のチェックインカウンターに赴き,
Cの航空券購入の手続をしていたところ,
張り込んでいた税関職員から質問検査を受け,
本件犯行が発覚した。
本件における実行の着手の有無
(1) 上記認定事実によれば,入口にエックス線検査装置が設けられ,
周囲から区画されたチェックインカウンターエリア内にある
検査済みシールを貼付された手荷物は,
航空機積載に向けた一連の手続のうち,
無許可輸出が発覚する可能性が最も高い保安検査で
問題のないことが確認されたものとして,
チェックインカウンターでの運送委託の際にも
再確認されることなく,通常,そのまま機内預託手荷物として
航空機に積載される扱いとなっていたのである。
そうすると,本件スーツケース6個を,機内預託手荷物として
搭乗予約済みの航空機に積載させる意図の下,
機内持込手荷物と偽って保安検査を回避して同エリア内に持ち込み,
不正に入手した検査済みシールを貼付した時点では,
既に航空機に積載するに至る
客観的な危険性が明らかに認められるから,
関税法111条3項,1項1号の無許可輸出罪の
実行の着手があったものと解するのが相当である。
(2) したがって,本件が無許可輸出の予備罪にとどまるとして
第1審判決を破棄した原判決には,
法令の解釈適用を誤った違法があり,
この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであって,
原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。
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