詐欺罪につき実行の着手
(平成30年3月22日最高裁)
事件番号 平成29(あ)322
この裁判では、
詐欺罪につき実行の着手について
裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
本件の事実関係
第1審判決及び原判決の認定並びに記録によると,
本件の事実関係は,次のとおりである。
ア 長野市内に居住する被害者は,平成28年6月8日,
甥になりすました氏名不詳者からの電話で,
仕事の関係で現金を至急必要としている旨の嘘を言われ,
その旨誤信し,甥の勤務する会社の系列社員と称する者に
現金100万円を交付した。
イ 被害者は,平成28年6月9日午前11時20分頃,
警察官を名乗る氏名不詳者からの電話で,
「昨日,駅の所で,不審な男を捕まえたんですが,
その犯人が被害者の名前を言っています。」
「昨日,詐欺の被害に遭っていないですか。」
「口座にはまだどのくらいの金額が残っているんですか。」
「銀行に今すぐ行って全部下ろした方がいいですよ。」
「前日の100万円を取り返すので協力してほしい。」
などと言われ(1回目の電話),
同日午後1時1分頃,
警察官を名乗る氏名不詳者らからの電話で,
「僕,向かいますから。」
「2時前には到着できるよう僕の方で態勢整えますので。」
などと言われた(2回目の電話)。
ウ 被告人は,平成28年6月8日夜,氏名不詳者から,
長野市内に行くよう指示を受け,同月9日朝,
詐取金の受取役であることを認識した上で長野市内へ移動し,
同日午後1時11分頃,氏名不詳者から,
被害者宅住所を告げられ,
「お婆ちゃんから金を受け取ってこい。」
「29歳,刑事役って設定で金を取りに行ってくれ。」
などと指示を受け,その指示に従って被害者宅に向かったが,
被害者宅に到着する前に警察官から
職務質問を受けて逮捕された。
エ 警察官を名乗って上記イ記載の
2回の電話をかけた氏名不詳者らは,
上記ア記載の被害を回復するための協力名下に,
警察官であると誤信させた被害者に
預金口座から現金を払い戻させた上で,
警察官を装って被害者宅を訪問する予定でいた
被告人にその現金を交付させ,これをだまし取ることを計画し,
その計画に基づいて,被害者に対し,
上記イ記載の各文言を述べたものであり,
被告人も,その計画に基づいて,被害者宅付近まで赴いたものである。
本件における詐欺罪の実行の着手の有無
本件における,上記(1)イ記載の各文言は,
警察官を装って被害者に対して直接述べられたものであって,
預金を下ろして現金化する必要があるとの嘘(1回目の電話),
前日の詐欺の被害金を取り戻すためには被害者が
警察に協力する必要があるとの嘘(1回目の電話),
これから間もなく警察官が被害者宅を訪問するとの
嘘(2回目の電話)を含むものである。
上記認定事実によれば,
これらの嘘(以下「本件嘘」という。)を述べた行為は,
被害者をして,本件嘘が真実であると誤信させることによって,
あらかじめ現金を被害者宅に移動させた上で,
後に被害者宅を訪問して警察官を装って
現金の交付を求める予定であった
被告人に対して現金を交付させるための計画の一環として行われたものであり,
本件嘘の内容は,その犯行計画上,被害者が現金を交付するか否かを
判断する前提となるよう予定された事項に
係る重要なものであったと認められる。
そして,このように段階を踏んで嘘を
重ねながら現金を交付させるための犯行計画の下において
述べられた本件嘘には,預金口座から現金を下ろして
被害者宅に移動させることを求める趣旨の文言や,
間もなく警察官が被害者宅を訪問することを予告する文言といった,
被害者に現金の交付を求める行為に直接つながる嘘が含まれており,
既に100万円の詐欺被害に遭っていた被害者に対し,
本件嘘を真実であると誤信させることは,被害者において,
間もなく被害者宅を訪問しようとしていた被告人の求めに応じて
即座に現金を交付してしまう
危険性を著しく高めるものといえる。
このような事実関係の下においては,
本件嘘を一連のものとして被害者に対して述べた段階において,
被害者に現金の交付を求める文言を述べていないとしても,
詐欺罪の実行の着手があったと認められる。
・行政書士受験生にオススメのAmazon Kindle Unlimitedで読める本
スポンサードリンク
関連記事