高知放送事件(昭和52年1月31日最高裁)
事件番号 昭和49(オ)165
放送事業会社のY社のアナウンサーXは、
宿直勤務に従事して寝過ごして、定時のラジオニュースを
放送することができないという事故を
2週間内に2度もしてしまいました。
二回目の事故は、上司に事後報告をせず、また、
1週間後にこれを知った部長から事後報告書を求められた際、
事実とは異なる報告書を提出しました。
Y社は、Xのこれらの行為が、
就業規則の懲戒事由に該当するとして、
懲戒解雇とすべきところ、Xの再就職を考慮して、
普通解雇としました。
Xは、解雇は無効であるとして、
従業員としての地位の確認の訴えを提起しました。
Y社の就業規則15条には、普通解雇の定めとして、
次のように定められていました。
「従業員が次の各号の一に該当するときは、
30日前に予告して解雇する。
但し会社が必要とするときは
平均賃金の30日分を支給して即時解雇する。
ただし労働基準法の解雇制限該当者はこの限りでない。
一、精神または身体の障害により業務に耐えられないとき。
二、天災事変その他巳むをえない事由のため事業の継続が不可能となつたとき。
三、その他、前各号に準ずる程度の巳むをえない事由があるとき。」
最高裁判所の見解
Xの行為は、就業規則15条3号の普通解雇事由にも
該当するものというべきである。
しかしながら、普通解雇事由がある場合においても、
使用者は常に解雇しうるものではなく、
当該具体的な事情のもとにおいて、
解雇に処することが著しく不合理であり、
社会通念上相当なものとして
是認することができないときには、当該解雇の意思表示は、
解雇権の濫用として無効になるものというべきである。
本件においては、Xの起こした第1、第2事故は、
定時放送を使命とするY社の
対外的信用を著しく失墜するものであり、
また、Xが寝過しという同一態様に基づき
特に2週間内に2度も同様の事故を起こしたことは、
アナウンサーとしての責任感に欠け、更に、
第二事故直後においては
卒直に自己の非を認めなかった等の点を考慮すると、
被上告人に非がないということはできないが、
他面、原審が確定した事実によれば、
本件事故は、いずれもXの寝過しという
過失行為によって発生したものであって、
悪意ないし故意によるものではなく、また、通常は、
ファックス担当者が先に起き
アナウンサーを起こすことになっていたところ、
本件第一、第二事故ともファックス担当者においても寝過し、
定時にXを起こしてニュース原稿を手交しなかったのであり、
事故発生につき被上告人のみを責めるのは酷であること、
被上告人は、第一事故については
直ちに謝罪し、第二事故については
起床後一刻も早くスタジオ入りすべく努力したこと、
第一、第二事故とも寝過しによる放送の空白時間は
さほど長時間とはいえないこと、
上告会社において早朝のニュース放送の万全を期すべき
何らの措置も講じていなかったこと、
事実と異なる事故報告書を提出した点についても、
一階通路ドアの開閉状況に被上告人の誤解があり、
また短期間内に二度の放送事故を起こし気後れしていたことを考えると、
右の点を強く責めることはできないこと、Xはこれまで放送事故歴がなく、
平素の勤務成績も別段悪くないこと、第二事故のファックス担当者Eは
けん責処分に処せられたにすぎないこと、
Y社においては従前放送事故を理由に解雇された事例はなかったこと、
第二事故についても結局は
自己の非を認めて謝罪の意を表明していること、
等の事実があるというのであって、
右のような事情のもとにおいて、
Xに対し解雇をもってのぞむことは、いささか苛酷にすぎ、
合理性を欠くうらみなしとせず、
必ずしも社会的に相当なものとして
是認することはできないと考えられる余地がある。
・行政書士受験生にオススメのAmazon Kindle Unlimitedで読める本
スポンサードリンク
関連記事