府中市議会議員政治倫理条例の合憲性
(平成26年5月27日最高裁)
事件番号 平成24(オ)888
最高裁判所の見解
本件規定が憲法21条1項に違反するかどうかは,
2親等規制による議員活動の自由についての制約が
必要かつ合理的なものとして是認されるかどうかによるものと解されるが,
これは,その目的のために制約が必要とされる程度と,
制約される自由の内容及び性質,具体的な制約の態様及び
程度等を較量して決するのが相当である
(最高裁昭和52年(オ)第927号同58年6月22日大法廷判決・
民集37巻5号793頁,最高裁昭和61年(行ツ)
第11号平成4年7月1日大法廷判決・
民集46巻5号437頁等参照)。
本件条例は,議員の政治倫理に関する規律の基本となる事項を定めることにより
議員の政治倫理の確立を主権者たる市民に宣言し,
もって市民に信頼される清浄で民主的な
市政の発展に寄与することを目的とし(1条),
議員は,市民全体の奉仕者として,自らの役割を深く自覚し,
市民に対し,常に政治倫理に関する高潔性を示すよう努めるとともに,
その使命の達成に努めなければならないと定めており(2条),
これらの本件条例の趣旨及び目的や
前記2(1)の本件条例4条1項及び3項の文言等に鑑みると,
本件規定による2親等規制の目的は,
議員の職務執行の公正を確保するとともに,
議員の職務執行の公正さに対する市民の疑惑や
不信を招くような行為の防止を図り,
もって議会の公正な運営と市政に対する市民の信頼を
確保することにあるものと解され,
このような規制の目的は正当なものということができる。
本件規定による2親等規制は,上記の目的に従い,
議員の当該企業の経営への実質的な関与の有無等を問うことなく,
上告人の工事等の請負契約等の相手方が
2親等内親族企業であるという基準をもって,
当該議員に対し,当該企業の辞退届を徴して
提出するよう努める義務を課すものであるが,
議員が実質的に経営する企業であるのに
その経営者を名目上2親等以内の親族とするなどして
地方自治法92条の2の規制の潜脱が行われるおそれや,
議員が2親等以内の親族のために当該親族が
経営する企業に特別の便宜を図るなどして
議員の職務執行の公正が害されるおそれが
あることは否定し難く(地方自治法169条,198条の2等参照),
また,2親等内親族企業が上告人の工事等を受注することは,
それ自体が議員の職務執行の公正さに対する
市民の疑惑や不信を招くものといえる。
そして,議員の当該企業の経営への実質的な関与の有無等の事情は,
外部の第三者において容易に把握し得るものではなく,
そのような事実関係の立証や認定は困難を伴い,
これを行い得ないことも想定されるから,
仮に上記のような事情のみを規制の要件とすると,
その規制の目的を実現し得ない結果を招来することになりかねない。
他方,本件条例4条3項は,議員に対して
2親等内親族企業の辞退届を提出するよう努める義務を課すにとどまり,
辞退届の実際の提出まで義務付けるものではないから,
その義務は議員本人の意思と努力のみで履行し得る性質のものである。
また,議員がこのような義務を履行しなかった場合には,
本件条例所定の手続を経て,警告や辞職勧告等の措置を受け,
審査会の審査結果を公表されることによって,
議員の政治的立場への影響を通じて議員活動の自由についての
事実上の制約が生ずることがあり得るが,
これらは議員の地位を失わせるなどの法的な効果や
強制力を有するものではない。
これらの事情に加え,本件条例は地方公共団体の議会の
内部的自律権に基づく自主規制としての性格を有しており,
このような議会の自律的な規制の在り方については
その自主的な判断が尊重されるべきものと解されること等も考慮すると,
本件規定による2親等規制に基づく議員の議員活動の自由についての制約は,
地方公共団体の民主的な運営におけるその活動の意義等を考慮してもなお,
前記の正当な目的を達成するための手段として
必要かつ合理的な範囲のものということができる。
以上に鑑みると,2親等規制を定める本件規定は,
憲法21条1項に違反するものではないと解するのが相当である。
また,本件規定による2親等規制が
憲法22条1項及び29条に違反するかどうかについてみるに,
上記(1)において説示した点に加え,規制の対象となる企業の
経済活動は上告人の工事等に係る請負契約等の締結に限られるところ,
2親等内親族企業であっても,
上記の請負契約等に係る入札資格を制限されるものではない上,
本件条例上,2親等内親族企業は上記の請負契約等を
辞退しなければならないとされているものの,
制裁を課するなどしてその辞退を法的に強制する規定は
設けられておらず,2親等内親族企業が
上記の請負契約等を締結した場合でも
当該契約が私法上無効となるものではないこと等の事情も考慮すると,
本件規定による2親等規制に基づく
2親等内親族企業の経済活動についての制約は,
前記の正当な目的を達成するための手段として
必要性や合理性に欠けるものとはいえず,
2親等規制を定めた市議会の判断は
その合理的な裁量の範囲を超えるものではないということができる。
以上に鑑みると,2親等規制を定める本件規定は,
憲法22条1項及び29条に
違反するものではないと解するのが相当である。
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