親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求めることが権利の濫用に当たるとされた事例

(平成29年12月5日最高裁)

事件番号  平成29(許)17

 

この裁判では、

離婚した父母のうち子の親権者と定められた父が

法律上監護権を有しない母に対し親権に基づく妨害排除請求として

子の引渡しを求めることが権利の濫用に当たるとされた事例

について裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

離婚した父母のうち子の親権者と定められた一方は,

民事訴訟の手続により,法律上監護権を有しない

他方に対して親権に基づく妨害排除請求として

子の引渡しを求めることができると解される

(最高裁昭和32年(オ)第1166号同35年3月15日

第三小法廷判決・民集14巻3号430頁,

最高裁昭和45年(オ)第134号同年5月22日

第二小法廷判決・判例時報599号29頁)。

 

もっとも,親権を行う者は子の利益のために

子の監護を行う権利を有する(民法820条)から,

子の利益を害する親権の行使は,権利の濫用として許されない。

 

本件においては,長男が7歳であり,母は,抗告人と

別居してから4年以上,

単独で長男の監護に当たってきたものであって,

母による上記監護が長男の利益の観点から

相当なものではないことの疎明はない。

 

そして,母は,抗告人を相手方として

長男の親権者の変更を求める調停を申し立てているのであって,

長男において,仮に抗告人に対し引き渡された後,

その親権者を母に変更されて,母に対し引き渡されることになれば,

短期間で養育環境を変えられ,

その利益を著しく害されることになりかねない。

 

他方,抗告人は,母を相手方とし,子の監護に関する処分として

長男の引渡しを求める申立てをすることができるものと解され,

上記申立てに係る手続においては,

子の福祉に対する配慮が図られているところ

(家事事件手続法65条等),抗告人が,

子の監護に関する処分としてではなく,

親権に基づく妨害排除請求として

長男の引渡しを求める合理的な理由を有することはうかがわれない。

 

そうすると,上記の事情の下においては,

抗告人が母に対して親権に基づく妨害排除請求として

長男の引渡しを求めることは,

権利の濫用に当たるというべきである。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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