河川管理の瑕疵

(平成2年12月13日最高裁)

事件番号  昭和63(オ)791

 

この裁判では、河川管理の瑕疵について

裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

河川の備えるべき安全性としては、

一般に施行されてきた治水事業の過程における

河川の改修、整備の段階に対応する安全性をもって

足りるものとせざるを得ない。

 

そして、河川の管理についての瑕疵の有無は、

過去に発生した水害の規模、発生の頻度、発生原因、

被害の性質、降雨状況、流域の地形

その他の自然的条件、土地の利用状況その他の

社会的条件、改修を要する緊急性の有無及び

その程度等諸般の事情を総合的に考慮し、

河川管理における財政的、技術的及び社会的諸制約のもとでの

同種・同規模の河川の管理の一般的水準及び

社会通念に照らして是認し得る安全性を備えていると

認められるかどうかを基準として

判断すべきであると解するのが相当である。

 

工事実施基本計画が策定され、

右計画に準拠して改修、整備がされ、

あるいは右計画に準拠して新規の改修、整備の必要がないものとされた

河川の改修、整備の段階に対応する安全性とは、

同計画に定める規模の洪水における流水の通常の作用から

予測される災害の発生を防止するに足りる

安全性をいうものと解すべきである。

 

けだし、前記判断基準に示された河川管理の特質から考えれば、

改修、整備がされた河川は、その改修、整備がされた段階において

想定された洪水から、当時の防災技術の水準に照らして

通常予測し、かつ、回避し得る水害を未然に防止するに足りる

安全性を備えるべきものであるというべきであり、

水害が発生した場合においても、当該河川の改修、

整備がされた段階において想定された規模の洪水から

当該水害の発生の危険を通常予測することができなかった場合には、

河川管理の瑕疵を問うことができないからである。

 

水害発生当時においてその発生の危険を通常予測することができたとしても、

右危険が改修、整備がされた段階においては

予測することができなかったものであって、

当該改修、整備の後に生じた河川及び流域の環境の変化、

河川工学の知見の拡大又は防災技術の向上等によって

その予測が可能となったものである場合には、直ちに、

河川管理の瑕疵があるとすることはできない。

 

けだし、右危険を除去し、又は

減殺するための措置を講ずることについては、

前記判断基準の示す河川管理に関する諸制約が存在し、

右措置を講ずるためには相応の期間を必要とするのであるから、

右判断基準が示している諸事情及び

諸制約を当該事案に即して考慮した上、

右危険の予測が可能となった時点から

当該水害発生時までに、予測し得た

危険に対する対策を講じなかったことが

河川管理の瑕疵に該当するかどうかを

判断すべきものであると考えられるからである。

 

許可工作物の存在する河川部分における

河川管理の瑕疵の有無は、

当該河川部分の全体について、前記判断基準の示す

安全性を備えていると認められるかどうかによって判断すべきものであり、

全体としての当該河川部分の管理から右工作物の管理を切り離して、

右工作物についての改修の要否のみに基づいて、

これを判断すべきものではない

 

けだし、河道内に河川管理施設以外の

許可工作物が存在する場合においては、

原審の説示するとおり、河川管理者としては、当該工作物

そのものの管理権を有しないとしても、

右工作物が存在することを所与の条件として、

当該工作物に関する監督処分権の行使又は

自己の管理する河川施設の改修、整備により、

河川の安全性を確保する責務があるのであって、

当該工作物に存在する欠陥により当該河川部分について

その備えるべき安全性が損なわれるに至り、

他の要件が具備するときは、

右工作物が存在する河川部分について

河川管理の瑕疵があるというべきことになるからである。

 

また、許可工作物が存在することによって生ずる危険を除去し、

減殺するために当該工作物又は

これと接続する河川管理施設のみを改修し、

整備する場合においても、前記判断基準の示す財政的、

技術的及び社会的諸制約があることは、いうまでもない。

 

しかし、その程度は、広範囲にわたる河川流域に及ぶ

河川管理施設を改修し、整備する場合におけるそれと比較して、

通常は、相当に小さいというべきであるから、

右判断基準の示す安全性の有無を判断するに当たっては、

右の事情をも考慮すべきである。

 

本件における河川管理の瑕疵の有無を検討するに当たっては、まず、

本件災害時において、基本計画に定める計画高水流量規模の流水の

通常の作用により本件堰及びその取付部護岸の欠陥から

本件河川部分において破堤が生ずることの危険を

予測することができたかどうかを検討し、

これが肯定された場合には、右予測をすることが

可能となった時点を確定した上で、

右の時点から本件災害時までに前記判断基準に示された

諸制約を考慮しても、なお、本件堰に関する

監督処分権の行使又は本件堰に接続する河川管理施設の

改修、整備等の各措置を適切に講じなかったことによって、

本件河川部分が同種・同規模の河川の管理の一般的水準及び

社会通念に照らして是認し得る安全性を欠いていたことになるかどうかを、

本件事案に即して具体的に判断すべきものである

 

全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

行政判例コーナー

行政法の解説コーナー


行政書士試験にわずか147日で合格した勉強法

行政書士受験生にオススメのAmazon Kindle Unlimitedで読める本


スポンサードリンク

関連記事