高等海難審判庁の海難原因を明らかにする裁決の取消を求める訴の適否

(昭和36年3月15日最高裁)

事件番号  昭和28(オ)110

 

この裁判では、

高等海難審判庁の海難原因を明らかにする

裁決の取消を求める訴の適否について

裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

本件は海難審判法53条によって出訴されたものである。

 

同条は高等海難審判庁の裁決に対する訴につき、

その管轄裁判所及び訴期間を定めているけれども、

高等海難審判庁の如何なる裁決に対して訴を

提起することができるかについては、

何等の規定をも設けていない。

 

それ故如何なる裁決について出訴できるかの問題は、

行政訴訟の一般原則に従って解決されなければならない。

 

この点においては、右53条による訴訟も

行政事件訴訟特例法における原則の例外をなすものではない。

(海難審判法施行の日が行政事件訴訟特例法の

それより前であるということは、この理にかかわりない。)

ところで右特例法が広く行政庁の違法処分に対し

取消変更を求 める訴を規定しているのは、

行政庁の処分が国民の権利義務に直接に関係し、

違法な処分が国民の法律上の利益を侵すことがあるからであり、

従って行政庁の行為であっても、

性質上かような効力をもたない行為は、

右特例法にいわゆる行政庁の処分に

あたらないと解すべきである。

 

同様に、海難審判庁の裁決であっても、

上述の効力をもたない裁決は、

右にいう行政処分にあたらず、

その取消を求める訴を提起することは

できないものといわなければならない

 

本件裁決の主文が、本件衝突は、

被上告人の業務上の過失によって

発生したということを示す趣旨のものであることは、

原判決の判示するとおりである。

 

すなわちこの裁決は、

上述の海難の原因を明らかにする裁決であって、

被上告人に何等かの義務を課しもしくは

その権利行使を妨げるものでないことは、

法律の規定及び裁決自体によって明らかであり、

被上告人の過失を確定する効力もないことは

後述するとおりである。

 

そうだとすれば、本件裁決は被上告人の権利義務に

直接関係のない裁決であって、

これを行政処分と解することはできず、

被上告人から出訴することは

許されないものとしなければならない。

 

原判決が本訴を適法とした理由の一は、

海難に関する権威者からなる審判官によって

訴訟手続に類する慎重な手続のもとに下された本件裁決は、

本件海難に関係のある損害賠償請求の訴訟事件等において、

事実上尊重されるという点にある。

 

しかし裁決の既判力等が他の訴訟事件に及ばないことは

原判決も認めているのであって、

本件裁決が他の訴訟において

重要な意味を持つといっても、

一の証拠資料になるということだけのことであり、

反証をあげて裁決の内容を争うことは少しも支障はなく、

また裁判所も裁決と違つた事実認定を

することを少しも妨げられないのである。

 

換言すれば、本件裁決は被上告人の過失について

確定する効力を持たないのである。

 

ことに本件裁決のように被上告人が

審判手続に加わっていない場合には、

被上告人を当事者とする他の訴訟事件の証拠としても

その価値はそれだけ低いものともいえるのである。

 

一般に行政処分は、処分が法律上当然に無効でない以上、

行政庁の職権によりまたは争訟手続により取り消されない限り、

かりに違法であっても有効とされ、他の訴訟においても

その違法を主張できなくなる効力を持つ。

 

しかるに海難原因を明らかにする裁決は、

裁決によって確定されるべき権利関係はなく、

裁決に対し訴訟を提起しなくても、

他の訴訟で裁決内容を争えなくなるものではないから、

このことによつても、本件裁決が特例法にいう

行政庁の処分にあたらないことは明らかである。

 

原判決は、なお、その理由として、

裁決を海難審判庁自ら撤回できないことを挙げているけれども、

このことによつて裁決の実質的な効力が

左右されるものではない。

 

また、原判決は、被上告人の過失が

裁決主文に記載されている事実をもあげているのであるが、

裁決が事実上尊重されるということであれば、

主文中に記載されていようと理由中に記載されていようと

かわりはないはずである。

 

海難審判法46条が理事官及び受審人にのみ二審請求を許し、

同法53条4項が地方海難審判庁の裁決に対して

裁判所に訴の提起を許さず、その結果地方海難審判庁が

本件裁決のような裁決をした場合に、

訴訟につながる途がないことも、

以上の趣旨によって理解し得ることである。

 

もとより立法論としては、上述のように

海難審判庁の審理手続が訴訟類似の手続をとり、

その途の権威者によつて裁決されるものである以上、

その裁決に対して何等かの確定力または

裁判所に対する拘束力を与え、同時に受審人、

理事官以外の者に二審請求をゆるすことも、

あるいは望ましいといえるかも知れないが、

それは立法政策の問題であって、

現行法の解釈としては、

原判決のような解釈をとることはできない。

 

論旨は理由があるものといわなければならない。

 

論旨は、原判決が、本件裁決は被上告人に弁解の機会を与えず、

被上告人に過失あることを主文の中に記載した点において、

不告不理の原則に反する、と判示したことを非難する。

 

この点に関する原判示は首肯することができる点もあり、

上告人が本件裁決をするに際し、審理手続にも加わらず

弁明の機会も与えられなかった被上告人の過失を

裁決主文で認めたことは妥当でないともいうことができる。

 

しかし、本件裁決が前述のような理由によって

行政処分たる効力をもたない以上、

このことから逆に本件裁決を行政処分と解することはできず、

本件裁決を行政処分と解してその取消を求める訴が

ゆるされない以上、このことによって

本件裁決を違法として取り消すべき

理由にはならないのである

 

全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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