リラックス法学部 憲法判例憲法判例 自己決定権 丸刈り校則事件の概要と判例の趣旨をわかりやすく解説

 

自己決定権 丸刈り校則事件

(熊本地判昭和60年11月13日)

 

熊本県の町立中学校の校長は

「男子生徒は丸刈にすること、長髪禁止」

という服装規定(校則)を定め、

長髪を続けていた同校の男子学生Xは、

級友から嫌がらせを受け、学校と校長に対し、

この校則の無効確認と、

学校に対し損害賠償の請求を訴え、

無効確認の訴えは却下、

損害賠償請求の訴えは棄却されました。

 

まず、男性と女性には髪型には

異なる慣習があることから、

男子生徒と女子生徒で、

髪型につき異なる規定をおいても

合理的差別であり、憲法14条に反しない

という見解を裁判所は示しました。

 

中学校長は、生徒を規律する校則を

定める包括的な機能を有し、

どの程度、どのような方法で、

生徒の服装等を規制するのが適正かは、

最終的には校長の専門的・技術的判断の

手腕に委ねられるべきで、

その内容が著しく不合理でない限り、

校則は違法ではないという

見解を裁判所は示しました。

 

 

つまり、「丸刈り」という髪型そのものが

社会的にどのような位置づけなのか?

丸刈りにさせること自体が屈辱的で

合理性を著しく欠くという髪型なのか、

また、丸刈りという髪型が

そのような地位でないとして、

「丸刈り校則」の運用の仕方に

著しく不合理な点はないのかという

ことが注目されます。

 

本件の校則は非行化の防止等の

教育目的で制定されたものでありますが、

丸刈りが最も中学生に

ふさわしい髪型であるという社会的合意はなく、

頭髪の規制により直ちに非行が

防止されるようなものでもありません。

 

当時の熊本市内でも長髪を

許可する増えている状況からも、

この校則に疑いをもつ余地はあります。

 

しかし、丸刈りは男子生徒の

確固たる髪型のひとつとして

認められているのもまた事実であります。

 

また、この校則違反者に対して

校長、学校は指導、訓告の措置にとどめ、

ハサミやバリカンなどで強制的に

丸刈りにするようなことはしていません。

 

こうした丸刈りの社会的許容性、

つまり「丸刈りだってそんなに悪くないじゃないか」

という丸刈りの社会的印象や、

力づくで丸刈りにするようなことはない

本件校則の運用に照らすと、

この丸刈り校則の内容は著しく

不合理なものとはいえないとするのが、

裁判所の結論です。

 

憲法13条の保障内容について

プライバシー等に限定する人格的利益説と、

髪型・服装・喫煙などの自由を含む

一般的自由説の対立がありますが、

本判決は男子生徒のみに

丸刈りの校則の規定をおいても合理的差別で、

また髪型の自由が憲法21条により保護されないとした上で、

校則による髪型の規制の適法性を、

憲法13条には触れず、

裁量権の逸脱という枠組みで緩やかに判断しました。

 

その後の最高裁も髪型の規制や

バイクの規制や違反者に対する自己退学勧告

の適法性を緩やかに認めています。

 

と、このような裁判所の見解と結論でした。

 

1985年(昭和60年)の判例ですので、

現代の学生の方と「丸刈り」

の感覚に違いがあるかもしれません。

 

現在でも高校球児は丸刈りにするのが

あたりまえみたいなノリがあると思いますが、

昔はその「あたりまえに丸刈りにさせられるノリ」の

範囲がもっと広かったような気がします。

 

私が学生だったのはこの判例よりも

10数年ほど後(1990年代後半)ですが、

その頃でも「あたりまえに丸刈りにするノリ」が

野球部に限らず、多くの運動部、

あるいは学校自体で

あることもめずらしくなかったと思います。

 

小学生時代は自由で、

中学に入ったら部活によっては丸刈り強制で、

「あたりまえ」の感覚もあったけど、

内心イヤイヤ丸刈りにした人も

多かったと思いますが…。

 

私、個人的な感想としましては、

この学生は丸刈りそのものを

嫌がっているということも

あるかもしれませんが、

「長髪を続け級友に嫌がらせを受けた」

ことの方が問題のような気がします。

 

要するに、丸刈りにしなければ

学校というコミュニティで肩身が狭くなるという

シチュエーションを作り出す事の方が

問題のように思います。

 

つまり対象となる髪型が

丸刈りであろうが角刈りであろうが、

その髪型がどうとか、運用がどうという議論は、

問題の本質からズレている気がします。

 

学生時代の

「皆そうしてるのになぜお前はしないのだ」

という強迫観念と孤独は、

直接バリカンを向けられる強制力を

凌駕するものと思います。

 

まあ、無効確認の訴えですので、

裁判所としての判断すべき点の限界を

考慮すると致し方ない事とは思いますが。

 

個人的な感想としては

「専門的・技術的判断」で

「非行を防ぐために丸刈り」

という愚鈍な発想をする人間の作った規定が

「著しく不合理でない限り違法でない」

つまり「多少の不合理ならいくらでもまかり通る」

というのは非常に恐ろしいなと思います。

 

という事で、今回は憲法判例 自己決定権

丸刈り校則事件について説明してまいりました。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

憲法の解説コーナートップへ

【憲法】試験対策要点まとめコーナートップへ

憲法判例コーナートップへ


行政書士試験にわずか147日で合格した勉強法

行政書士受験生にオススメのAmazon Kindle Unlimitedで読める本


スポンサードリンク

関連記事