弁済による代位
(昭和59年5月29日最高裁)
事件番号 昭和55(オ)351
この裁判では、
弁済による代位について
裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
弁済による代位の制度は、
代位弁済者が債務者に対して
取得する求償権を確保するために、
法の規定により弁済によって
消滅すべきはずの債権者の債務者に対する
債権(以下「原債権」という。)及び
その担保権を代位弁済者に移転させ、代位弁済者が
その求償権の範囲内で原債権及び
その担保権を行使することを認める制度であり、
したがって、代位弁済者が弁済による代位によって
取得した担保権を実行する場合において、
その被担保債権として扱うべきものは、原債権であって、
保証人の債務者に対する求償権でないことはいうまでもない。
債務者から委託を受けた保証人が
債務者に対して取得する求償権の内容については、
民法459条2項によって準用される同法442条2項は、
これを代位弁済額のほかこれに対する弁済の日以後の
法定利息等とする旨を定めているが、右の規定は、
任意規定であって、保証人と債務者との間で
右の法定利息に代えて法定利率と異なる約定利率による
代位弁済の日の翌日以後の遅延損害金を
支払う旨の特約をすることを禁ずるものではない。
また、弁済による代位の制度は保証人と債務者との
右のような特約の効力を制限する性質を
当然に有すると解する根拠もない。
けだし、単に右のような特約の効力を
制限する明文がないというのみならず、
当該担保権が根抵当権の場合においては、
根抵当権はその極度額の範囲内で原債権を担保することに変わりはなく、
保証人と債務者が約定利率による遅延損害金を支払う旨の特約によって
求償権の総額を増大させても、保証人が代位によって
行使できる根抵当権の範囲は右の極度額及び
原債権の残存額によつて限定されるのであり、また、
原債権の遅延損害金の利率が変更されるわけでもなく、
いずれにしても、右の特約は、担保不動産の物的負担を
増大させることにはならず、物上保証人に対しても、
後順位の抵当権者その他の利害関係人に対しても、
なんら不当な影響を及ぼすものではないからである。
そして、保証人と右の利害関係人とが保証人と債務者との間で
求償権の内容についてされた特約の効力に関して
物権変動の対抗問題を生ずるような
関係に立つものでないことは、
右に説示したところから明らかであり、
保証人は右の特約を登記しなければこれをもって
右の利害関係人に対抗することができない
関係にあるわけでもない(法がそのような特約を
登記する方法を現に講じていないのも、
そのゆえであると解される。)。
以上のとおりであるから、保証人が代位によって
行使できる原債権の額の上限は、
これらの利害関係人に対する関係において、
約定利率による遅延損害金を含んだ
求償権の総額によって画されるものというべきである。
物上保証人との間で同号の定める割合と
異なる特約をした保証人は、
後順位抵当権者等の利害関係人に対しても
右特約の効力を主張することができ、
その求償権の範囲内で右特約の割合に応じ
抵当権等の担保権を行使することができるものというべきである。
このように解すると、
物上保証人(根抵当権設定者)及び
保証人間に本件のように保証人が
全部代位できる旨の特約がある場合には、
保証人が代位弁済したときに、保証人が
同号所定の割合と異なり債権者の有していた
根抵当権の全部を行使することになり、
後順位抵当権者その他の利害関係人は
右のような特約がない場合に比較して
不利益な立場におかれることになるが、
同号は、共同抵当に関する同法392条のように、
担保不動産についての後順位抵当権者
その他の第三者のためにその権利を積極的に認めたうえで、
代位の割合を規定していると解することはできず、
また代位弁済をした保証人が行使する根抵当権は、
その存在及び極度額が登記されているのであり、
特約がある場合であっても、保証人が
行使しうる根抵当権は右の極度額の範囲を
超えることはありえないのであって、もともと、
後順位の抵当権者その他の利害関係人は、
債権者が右の根抵当権の被担保債権の全部につき
極度額の範囲内で優先弁済を主張した場合には、
それを承認せざるをえない立場にあり、
右の特約によって受ける不利益はみずから
処分権限を有しない他人間の法律関係によって
事実上反射的にもたらされるものにすぎず、
右の特約そのものについて公示の方法がとられていなくても、
その効果を甘受せざるをえない立場にあるものというべきである。
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