精神障害者と同居する配偶者と民法714条1項にいう「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」
(平成28年3月1日最高裁)
事件番号 平成26(受)1434
この裁判では、
精神障害者と同居する配偶者と民法714条1項にいう
「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」について
裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
民法752条は,夫婦の同居,協力及び
扶助の義務について規定しているが,
これらは夫婦間において相互に相手方に対して負う義務であって,
第三者との関係で夫婦の一方に何らかの作為義務を課するものではなく,
しかも,同居の義務についてはその性質上履行を
強制することができないものであり,協力の義務については
それ自体抽象的なものである。
また,扶助の義務はこれを相手方の生活を自分自身の生活として
保障する義務であると解したとしても,
そのことから直ちに第三者との関係で
相手方を監督する義務を基礎付けることはできない。
そうすると,同条の規定をもって同法714条1項にいう
責任無能力者を監督する義務を定めたものということはできず,
他に夫婦の一方が相手方の法定の監督義務者であるとする
実定法上の根拠は見当たらない。
したがって,精神障害者と同居する配偶者であるからといって,
その者が民法714条1項にいう
「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」
に当たるとすることはできないというべきである。
法定の監督義務者に該当しない者であっても,
責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし,
第三者に対する加害行為の防止に向けてその者が
当該責任無能力者の監督を現に行いその態様が
単なる事実上の監督を超えているなど
その監督義務を引き受けたとみるべき
特段の事情が認められる場合には,
衡平の見地から法定の監督義務を負う者と同視してその者に対し
民法714条に基づく損害賠償責任を
問うことができるとするのが相当であり,
このような者については,法定の監督義務者に準ずべき者として,
同条1項が類推適用されると解すべきである
(最高裁昭和56年(オ)第1154号同58年2月24日
第一小法廷判決・裁判集民事138号217頁参照)。
その上で,ある者が,精神障害者に関し,
このような法定の監督義務者に準ずべき者に当たるか否かは,
その者自身の生活状況や心身の状況などとともに,
精神障害者との親族関係の有無・濃淡,同居の有無
その他の日常的な接触の程度,精神障害者の財産管理への関与の状況など
その者と精神障害者との関わりの実情,精神障害者の
心身の状況や日常生活における問題行動の有無・内容,
これらに対応して行われている監護や介護の実態など
諸般の事情を総合考慮して,その者が精神障害者を
現に監督しているかあるいは監督することが
可能かつ容易であるなど衡平の見地からその者に対し
精神障害者の行為に係る責任を問うのが相当といえる
客観的状況が認められるか否かという観点から判断すべきである。
・行政書士受験生にオススメのAmazon Kindle Unlimitedで読める本
スポンサードリンク
関連記事