被害者側の過失
(昭和51年3月25日最高裁)
事件番号 昭和47(オ)457
この裁判では、
夫の運転する自動車に同乗する妻が右自動車と
第三者の運転する自動車との衝突により損害を被った場合において、
右衝突につき夫にも過失があるときに、
右第三者の負担すべき損害賠償額を定めるにつき、
夫の過失を民法722条2項にいう被害者の過失として
掛酌することができるかについて
裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
民法722条2項が不法行為による損害賠償の額を定めるにつき
被害者の過失を斟酌することができる旨を定めたのは、
不法行為によって発生した損害を加害者と
被害者との間において公平に分担させるという
公平の理念に基づくものであると考えられるから、
右被害者の過失には、被害者本人と身分上、
生活関係上、一体をなすとみられるような関係にある者の過失、
すなわちいわゆる被害者側の過失をも包含するものと解される。
したがって、夫が妻を同乗させて運転する自動車と
第三者が運転する自動車とが、
右第三者と夫との双方の過失の競合により衝突したため、
傷害を被った妻が右第三者に対し
損害賠償を請求する場合の損害額を算定するについては、
右夫婦の婚姻関係が既に破綻にひんしているなど
特段の事情のない限り、夫の過失を被害者側の過失として
斟酌することができるものと解するのを相当とする。
このように解するときは、加害者が、
いったん被害者である妻に対して全損害を賠償した後、
夫にその過失に応じた負担部分を求償するという求償関係をも
一挙に解決し、紛争を一回で
処理することができるという合理性もある。
これを本件についてみると、原判決は、
被上告人B1は夫である被上告人B2の
運転する自動車に同乗して
岩手県盛岡市a町b丁目c番d号先の道路を進行中、
上告人Aの運転する上告人有限会社D所有の自動車に衝突され、
傷害を被ったものであり、右交通事故における
上告人Aと被上告人B2の過失の割合は、
五対五であるが、被上告人B1自身に過失はなく、
同被上告人が被つた損害額を定めるについて、
夫である被上告人B2の過失は
斟酌すべきではないとするものである。
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