会社の権利能力と政治資金の寄附

(昭和45年6月24日最高裁)

事件番号  昭和41(オ)444

 

この裁判では、

会社の権利能力と政治資金の寄附について

裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

 

会社は、一定の営利事業を営むことを本来の目的とするものであるから、

会社の活動の重点が、定款所定の目的を遂行するうえに

直接必要な行為に存することはいうまでもないところである。

 

しかし、会社は、他面において、自然人とひとしく、

国家、地方公共団体、地域社会その他(以下社会等という。)の

構成単位たる社会的実在なのであるから、

それとしての社会的作用を負担せざるを得ないのであって、

ある行為が一見定款所定の目的とかかわりがないものであるとしても、

会社に、社会通念上、期待ないし要請されるものであるかぎり、

その期待ないし要請にこたえることは、

会社の当然になしうるところであるといわなければならない

 

そしてまた、会社にとっても、一般に、

かかる社会的作用に属する活動をすることは、

無益無用のことではなく、企業体としての円滑な発展を図るうえに

相当の価値と効果を認めることもできるのであるから、

その意味において、これらの行為もまた、間接ではあっても、

目的遂行のうえに必要なものであるとするを妨げない

 

災害救援資金の寄附、地域社会への財産上の奉仕、

各種福祉事業への資金面での協力などは

まさにその適例であろう。

 

会社が、その社会的役割を果たすために

相当な程度のかかる出捐をすることは、

社会通念上、会社としてむしろ

当然のことに属するわけであるから、毫も、

株主その他の会社の構成員の予測に反するものではなく、

したがって、これらの行為が

会社の権利能力の範囲内にあると解しても、

なんら株主等の利益を害するおそれはないのである。

 

以上の理は、会社が政党に政治資金を

寄附する場合においても同様である。

 

憲法は政党について規定するところがなく、

これに特別の地位を与えてはいないのであるが、

憲法の定める議会制民主主義は政党を無視しては

到底その円滑な運用を期待することはできないのであるから、

憲法は、政党の存在を当然に予定しているものというべきであり、

政党は議会制民主主義を支える不可欠の要素なのである。

 

そして同時に、政党は国民の政治意思を形成する

最も有力な媒体であるから、政党のあり方いかんは、

国民としての重大な関心事でなければならない。

 

したがって、その健全な発展に協力することは、

会社に対しても、社会的実在としての

当然の行為として期待されるところであり、

協力の一態様として政治資金の寄附についても

例外ではないのである。

 

論旨のいうごとく、会社の構成員が政治的信条を

同じくするものでないとしても、

会社による政治資金の寄附が、特定の構成員の利益を図り

またその政治的志向を満足させるためでなく、

社会の一構成単位たる立場にある会社に対し

期待ないし要請されるかぎりにおいてなされるものである以上、

会社にそのような政治資金の

寄附をする能力がないとはいえないのである。

 

上告人のその余の論旨は、

すべて独自の見解というほかなく、

採用することができない。

 

要するに、会社による政治資金の寄附は、

客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を

果たすためになされたものと認められるかぎりにおいては、

会社の定款所定の目的の範囲内の行為であるとするに妨げないのである。

 

論旨は、要するに、株式会社の政治資金の寄附が、

自然人である国民にのみ参政権を認めた憲法に反し、

したがつて、民法90条に反する行為であるという。

 

憲法上の選挙権その他のいわゆる参政権が

自然人たる国民にのみ認められたものであることは、

所論のとおりである。

 

しかし、会社が、納税の義務を有し自然人たる国民とひとしく

国税等の負担に任ずるものである以上、納税者たる立場において、

国や地方公共団体の施策に対し、

意見の表明その他の行動に出たとしても、

これを禁圧すべき理由はない。

 

のみならず、憲法第三章に定める

国民の権利および義務の各条項は、

性質上可能なかぎり、内国の法人にも

適用されるものと解すべきであるから、

会社は、自然人たる国民と同様、国や政党の特定の政策を支持、

推進しまたは反対するなどの政治的行為をなす自由を有するのである。

 

政治資金の寄附もまさにその自由の一環であり、

会社によってそれがなされた場合、

政治の動向に影響を与えることがあったとしても、

これを自然人たる国民による寄附と別異に扱うべき

憲法上の要請があるものではない。

 

論旨は、会社が政党に寄附をすることは

国民の参政権の侵犯であるとするのであるが、

政党への寄附は、事の性質上、国民個々の選挙権

その他の参政権の行使そのものに

直接影響を及ぼすものではないばかりでなく、

政党の資金の一部が選挙人の買収にあてられることがあるにしても、

それはたまたま生ずる病理的現象に過ぎず、しかも、

かかる非違行為を抑制するための制度は厳として存在するのであって、

いずれにしても政治資金の寄附が、

選挙権の自由なる行使を直接に侵害するものとはなしがたい。

 

会社が政治資金寄附の自由を有することは

既に説示したとおりであり、

それが国民の政治意思の形成に作用することがあっても、

あながち異とするには足りないのである。

 

所論は大企業による巨額の寄附は

金権政治の弊を産むべく、また、

もし有力株主が外国人であるときは外国による政治干渉となる危険もあり、

さらに豊富潤沢な政治資金は政治の腐敗を醸成するというのであるが、

その指摘するような弊害に対処する方途は、さしあたり、

立法政策にまつべきことであって、憲法上は、

公共の福祉に反しないかぎり、会社といえども

政治資金の寄附の自由を有するといわざるを得ず

これをもって国民の参政権を侵害するとなす論旨は採用のかぎりでない。

 

以上説示したとおり、株式会社の政治資金の寄附は

わが憲法に反するものではなく、したがって、

そのような寄附が憲法に反することを前提として、

民法90条に違反するという論旨は、

その前提を欠くものといわなければならない

 

全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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