株式の相続と訴訟の原告たる地位の承継
(昭和45年7月15日最高裁)
事件番号 昭和42(オ)1466
この裁判では、
株式の相続と訴訟の原告たる地位の承継について
裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
有限会社における社員の持分は、
株式会社における株式と同様、
社員が社員たる資格において会社に対して有する
法律上の地位(いわゆる社員権)を意味し、社員は、
かかる社員たる地位に基づいて、
会社に対し利益配当請求権(有限会社法四四条)、
残余財産分配請求権(同法73条)などのいわゆる自益権と
本件におけるような会社解散請求権(同法71条ノ2)、
社員総会決議取消請求権(同法41条、商法247条)、
同無効確認請求権(有限会社法41条、商法252条)などの
いわゆる共益権とを有するのであるが、
会社の営利法人たる性質にかんがみれば、これらの権利は、
自益権たると共益権たるとを問わず、いずれも
直接間接社員自身の経済的利益のために与えられ、
その利益のために行使しうべきものと解さなければならない。
このことは、社員が直接会社から
財産的利益を受けることを内容とする自益権については疑いがないが、
社員が会社の経営に関与し、不当な経営を防止しまたは
これにつき救済を求めることを内容とする共益権についても、
異なるところはない。
けだし、共益権も、帰するところ、
自益権の価値の実現を保障するために認められたものに
ほかならないのであって、その権利の性質上権利行使の結果が
直接会社および社員の利益に影響を及ぼすためその行使につき
一定の制約が存することは看過しがたいにしても、
本来それが社員自身の利益のために与えられたものであることは
否定することができないからである。
そして、このような共益権の性質に照らせば、
それは自益権と密接不可分の関係において全体として
社員の法律上の地位としての持分に包含され、したがって、
持分の移転が認められる以上(有限会社法19条)、
共益権もまたこれによって移転するものと解するのが相当であり、
共益権をもつて社員の一身専属的な権利であるとし、
譲渡または相続の対象となりえないと解するいわれはないのである。
以上説示したところによれば、本件における
会社解散請求権、社員総会決議取消請求権、同無効確認請求権のごときも、
持分の譲渡または相続により譲受人または
相続人に移転するものと認められる。
その理は、本件におけるように、
社員が社員たる資格に基づいて
会社解散の訴、社員総会決議の取消または無効確認の訴を
提起したのち持分の譲渡または相続が
行なわれた場合においても、異なるところはない。
ところで、社員が右のような訴を提起したのち
その持分を譲渡した場合には、譲受人は
会社解散請求権、社員総会決議取消請求権および
同無効確認請求権のごときは取得するけれども、
譲渡人の訴訟上における原告たる地位までも
承継するものとはいえない。
これに反して、相続の場合においては、
相続人は被相続人の法律上の地位を包括的に承継するのであるから、
持分の取得により社員たる地位にともなう
前記のごとき諸権利はもとより、
被相続人の提起した訴訟の原告たる地位をも承継し、
その訴訟手続を受け継ぐこととなるのである。
もし、原告たる被相続人の死亡により
同人の提起した訴訟が当然に終了するものとするならば、
本件の社員総会決議取消の訴におけるように提訴期間の定め
(有限会社法41条、商法248条1項)がある場合において、
被相続人の死亡当時すでにその提訴期間を経過しているときは、
相続人は新たに訴を提起することができず、
原告たる被相続人の死亡なる偶然の事情により、
社員がすでに着手していた社員総会決議のかしの是正の途が
閉ざされるという不合理な結果となるのを免れないのである。
してみれば、本件訴訟については、
原告たるDの死亡により、同人の有した被上告会社の持分の全部を
相続により取得した上告人において原告たる地位をも当然に
承継したものというべきであり、
右Dの死亡により本件訴訟が終了したものとすることはできない。
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