訴因と異なる態様の過失を認定するにつき訴因変更手続を要するとされた事例

(昭和46年6月22日最高裁)

事件番号  昭和44(あ)995

 

最高裁判所の見解

所論にかんがみ職権をもって調査すると、記録によれば、

本件起訴状記載の公訴事実第一は、

「被告人は、自動車の運転業務に従事しているものであるが、

昭和42年10月2日午後3時35分頃普通乗用自動車を運転し、

a町方面からb方面に向って進行し、

千葉県安房郡c町de番地先路上に差掛つた際、

前方交差点の停止信号で自車前方を同方向に向って

一時停止中のA(当34年)

運転の普通乗用自動車の後方約0.75米の地点に

一時停止中前車の先行車の発進するのを見て自車も

発進しようとしたものであるが、

かゝる場合自動車運転者としては前車の動静に十分注意し、

かつ発進に当つてはハンドル、ブレーキ等を確実に操作し、

もつて事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに、

前車の前の車両が発進したのを見て自車を発進させるべく

アクセルとクラツチベダルを踏んだ際当時雨天で濡れた靴を

よく拭かずに履いていたため足を滑らせてクラツチベダルから

左足を踏みはずした過失により自車を暴進させ

未だ停止中の前車後部に自車を追突させ、

因つて前記Aに全治約二週間を要する鞭打ち症、

同車に同乗していたB(当44年)に

全治約3週間を要する鞭打ち症の各傷害を負わせた。」

旨の事実であったところ、

第一審は、訴因変更の手続を経ないで、罪となるべき事実の第一として

「被告人は、自動車の運転業務に従事している者であるが、

昭和42年10月2日午後3時35分頃普通乗用自動車を運転し、

a町方面からb方面に向つて進行し、

安房郡c町de番地先路上に差しかかつた際、

自車の前に数台の自動車が一列になつて

一時停止して前方交差点の信号が進行になるのを待つていたのであるが、

この様な場合はハンドル、ブレーキ等を確実に操作し事故の発生を未然に

防止すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、

ブレーキをかけるのを遅れた過失により自車を

その直前に一時停止中のA(当34年)運転の

普通乗用自動車に追突させ、よって、

右Aに対し全治2週間を要する鞭打ち症の、

同車の助手席に同乗していたB(当44年)に対し

全治約3週間を要する鞭打ち症の各傷害を負わせた。」

旨の事実を認定判示した。

 

そして、原審弁護人が、

本件においては起訴事実と認定事実との間で

被告人の過失の態様に関する記載が全く相異なるから

訴因変更の手続を必要とする旨の主張をしたのに対し、

原判決は、その差は同一の社会的事実につき

同一の業務上注意義務のある場合における被告人の

過失の具体的行為の差異に過ぎず、本件においては

このような事実関係の変更により被告人の防禦に

何ら実質的不利益を生じたものとは認められないから、

第一審が訴因変更の手続を経ないで訴因と異なる事実を

認定したことは何ら不法ではない旨の判断を示して、

原審弁護人の前記主張をしりぞけ、

第一審判決を維持しているのである。

 

しかしながら、前述のように、本件起訴状に訴因として

明示された被告人の過失は、濡れた靴をよく拭かずに履いていたため、

一時停止の状態から発進するにあたり

アクセルとクラツチペダルを踏んだ際

足を滑らせてクラツチペダルから左足を

踏みはずした過失であるとされているのに対し、

第一審判決に判示された被告人の過失は、

交差点前で一時停止中の他車の後に進行接近する際

ブレーキをかけるのを遅れた過失であるとされているのであって、

両者は明らかに過失の態様を異にしており、このように、

起訴状に訴因として明示された態様の過失を認めず、

それとは別の態様の過失を認定するには、

被告人に防禦の機会を与えるため訴因の変更手続を

要するものといわなければならない

 

してみれば、第一審がこの手続を

とらないで判決したことは違法であり、

これを是認した原判決には法令の解釈を誤った違法がある。

 

そして、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであり、

これを破棄しなければいちじるしく正義に

反するものといわなければならない。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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