業務上横領罪における不法領得の意思

(平成13年11月5日最高裁)

事件番号  平成8(あ)267

 

この裁判では、業務上横領罪における「不法領得の意思」

の見解を裁判所が示しました。

 

最高裁判所の見解

被告人の不法領得の意思の有無について検討する。

当時,Aとしては,乗っ取り問題が長期化すると,

同社のイメージや信用が低下し,官公庁からの受注が減少したり,

社員が流出するなどの損害が懸念されており,

被告人らがこうした不利益を回避する意図をも有していたことは,

第1審判決が認定し,原判決も否定しないところである。

 

しかし,原判決も認定するように,本件交付は,

それ自体高額なものであった上,

もしそれによって株式買取りが実現すれば,

Fらに支払うべき経費及び報酬の総額は25億5000万円,

これを含む買取価格の総額は595億円という高額に上り

(当時のAの経常利益は,1事業年度で

20億円から30億円程度であった。),

Aにとって重大な経済的負担を伴うものであった。

 

しかも,それは違法行為を目的とするものとされる

おそれもあったのであるから,

会社のためにこのような金員の交付をする者としては,

通常,交付先の素性や背景等を慎重に調査し,

各交付に際しても,提案された工作の具体的内容と資金の

必要性,成功の見込み等について可能な限り確認し,

事後においても,資金の使途やその効果等につき

納得し得る報告を求めるはずのものである。

しかるに,記録によっても,

被告人がそのような調査等をした形跡はほとんどうかがうことができず,

また,それをすることができなかったことについての

合理的な理由も見いだすことができない。

 

本件交付における被告人の意図は

専らAのためにするところにはなかったと判断して,

本件交付につき被告人の不法領得の意思を認めた原判決の結論は,

正当として是認することができる。

 

当該行為ないしその目的とするところが違法であるなどの理由から

委託者たる会社として行い得ないものであることは,

行為者の不法領得の意思を推認させる1つの事情とはなり得る

 

しかし,行為の客観的性質の問題と行為者の主観の問題は,

本来,別異のものであって,

たとえ商法その他の法令に違反する行為であっても,

行為者の主観において,それを専ら会社のためにするとの意識の下に行うことは,

あり得ないことではない。

 

したがって,その行為が商法その他の法令に違反するという一事から,

直ちに行為者の不法領得の意思を認めることはできないというべきである。

 

しかし,本件において被告人の不法領得の意思の存在が

肯認されるべきことは前記のとおりであるから,

原判決の上記の判断の誤りは結論に影響しない。

 

全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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