鉄道事故について鉄道会社の歴代社長らに業務上過失致死傷罪が成立するか

(平成29年6月12日最高裁)

事件番号  平成27(あ)741

 

この裁判は、

曲線での速度超過により列車が脱線転覆し

多数の乗客が死傷した鉄道事故について,

鉄道会社の歴代社長らに業務上過失致死傷罪が

成立しないとされた事例です。

 

最高裁判所の見解

本件事故以前の法令上,ATSに速度照査機能を備えることも,

曲線にATSを整備することも義務付けられておらず,

大半の鉄道事業者は曲線にATSを整備していなかった上,

後に新省令等で示された転覆危険率を用いて脱線転覆の危険性を判別し,

ATSの整備箇所を選別する方法は,本件事故以前において,

JR西日本はもとより,

国内の他の鉄道事業者でも採用されていなかった。

 

また,JR西日本の職掌上,曲線へのATS整備は,

線路の安全対策に関する事項を所管する

鉄道本部長の判断に委ねられており,

被告人ら代表取締役においてかかる

判断の前提となる個別の曲線の危険性に

関する情報に接する機会は乏しかった。

 

JR西日本の組織内において,

本件曲線における脱線転覆事故発生の危険性が他の曲線における

それよりも高いと認識されていた事情もうかがわれない。

 

したがって,被告人らが,管内に2000か所以上も存在する

同種曲線の中から,特に本件曲線を脱線転覆事故発生の危険性が

高い曲線として認識できたとは認められない。

 

なお,指定弁護士は,本件曲線において

列車の脱線転覆事故が発生する危険性の認識に関し,

「運転士がひとたび大幅な速度超過をすれば脱線転覆事故が発生する」

という程度の認識があれば足りる旨主張するが,

前記のとおり,本件事故以前の法令上,

ATSに速度照査機能を備えることも,

曲線にATSを整備することも義務付けられておらず,

大半の鉄道事業者は曲線にATSを整備していなかったこと等の

本件事実関係の下では,上記の程度の認識をもって,

本件公訴事実に係る注意義務の発生根拠とすることはできない。

 

以上によれば,JR西日本の歴代社長である被告人らにおいて,

鉄道本部長に対しATSを本件曲線に整備するよう

指示すべき業務上の注意義務があったということはできない。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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