刑訴法435条6号の解釈適用

(平成29年12月25日最高裁)

事件番号  平成27(し)587

 

この裁判は、

 陳述書等の新証拠が無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たるとして

再審開始の決定をした原判断に刑訴法435条6号の

解釈適用を誤った違法があるとされた事例です。

 

最高裁判所の見解

(1) 請求人が提出した新証拠のうち中心となるものは,

A新供述である。

 

Aは,確定審の証人尋問において,

「請求人から,財産隠蔽の方法として本件店舗の

営業を仮装譲渡することを教えてもらい,

仮装譲受人としてBを提案された」旨供述した。

請求人は,Aが請求人に責任を転嫁するため虚偽を述べた旨主張し,

その信用性を争ったが,確定判決は,請求人の主張を排斥し,

A公判供述の信用性を肯定して請求人とA及びBとの共謀を認定し,

控訴審判決もこれを是認した。A新供述は,

請求人の関与を述べた部分は虚偽であった旨述べる

A作成名義の書面であるが,前記の経緯に照らすと,

A新供述が請求人に対し無罪を言い渡すべき

明らかな証拠といえるかどうかを判断するに当たっては,

供述を変更するに至った経緯・過程を含め,

その内容が,A公判供述の信用性判断を動揺させるに足りる事情を

供述するものであるかについて,

新証人尋問におけるAの供述も踏まえた上で,

慎重に吟味する必要があるというべきである。

しかし,以下のとおり,A新供述には重大な疑問がある。

 

ア A新供述は詳細なものであるが,新証人尋問におけるAの供述は,

曖昧で覚えていないと述べるところが多く,

主要な点で,A新供述の内容を再現できていない。

 

また,Aは,新証人尋問において,供述を変更した経緯・過程を問われた際,

請求人から連絡があってやり取りが始まった旨述べ,

請求人の冤罪を晴らさなくてはと思い立ち請求人の連絡先を調べたとの

A新供述と異なる内容を述べ,A新供述の作成過程についても

曖昧な供述に終始している。

 

このような事情は,時の経過等により記憶の減退があることを考慮しても,

A新供述が真に記憶に基づき作成されたものかについて

大きな疑念を抱かせるものといわざるを得ない。

 

イ A新供述では,請求人を本件仮装譲渡の

関与者と述べるに至った経緯について,

財産隠蔽の方法を教えてくれたのは,C税理士であったが,

その旨検察官に伝えたが聞いてもらえず,勾留質問の際,

裁判官から今回の事件を計画したのは請求人ではないのかと

断定的な口調で問われたため,Bへの恨みが高じて

請求人に対しても恨みを抱いていたこともあり,

実刑を免れたいとの思いから,請求人の名前を出して虚偽供述をした旨述べられている。

 

しかし,勾留質問時に裁判官から請求人の名前を出して

問われたことを虚偽供述の理由として述べる点が

信用性に乏しいものであることは,原決定も指摘するとおりである。

 

また,Aが勾留質問を受けた当時,C税理士は既に亡くなっており,

C税理士を関与者と述べることに支障があったとは思われず,

請求人の名前を出して虚偽を述べなければならない状況にあったとは言い難い。

 

そうであるのに,請求人が否認すればその真偽が

直ちに問題となることが容易に予想原決定は,

A新供述及びB公判供述を踏まえると,A又はBにおいて,

本件覚書を作成する際,違法な仮装譲渡であることが発覚した際の

責任を他者に転嫁することを思い付き,

その旨の文言を付加することが,不自然とはいえず,

本件覚書が請求人の関与を裏付けるものとはいえないと説示している。

 

しかし,A及びBのいずれも,原決定が説示するような理由で

本件覚書中に「親しい知人の仲介」という文言が

付加されたとは述べておらず,A新供述において,

何らかの時に責任逃れをするためBが使ったのだと考える旨

述べられているにすぎない。

 

また,本件覚書は,AとBとの間の将来の紛争に備えて

作成されたものであり,責任を逃れるための記載を入れる必要はなく,

請求人が本件仮装譲渡に関与していないとすると,

前記文言を付加した理由の説明は,なおさら困難となる。

 

さらに,責任を他者に転嫁するために前記文言が

付加されたのだとすると,なぜ「親しい知人」という

漠然とした表現を用いたのかも疑問となる。

 

本件覚書は,素直に読めば,本件仮装譲渡に

請求人の関与があったことを強くうかがわせるものというべきところ,

原決定は,A新供述と本件覚書との関係について説得的な

説明ができていないといわざるを得ない。

 

イ D公判供述は,本件仮装譲渡以前に,

請求人から電話やメモの交付を受けるなどして

本件店舗の名義人になってほしい旨の話があったというものであり,

本件に至る経緯に関するA公判供述と整合する内容となっている。

 

他方で,A新供述は,請求人の前記関与を全面的に否定するものである。

 

原決定は,元警察官である請求人がメモを渡すなど

違法行為についての証拠を残すことは通常考え難く,

D公判供述は内容自体にわかに信じ難いものであること,

Dは,Aと少なくとも経済的に相当密着した関係にあり,

Aが実刑判決を受けることを避けたいという動機があったことなどを指摘し,

D公判供述には信用性に疑問を差し挟むべき事情があると説示している。

 

しかし,D公判供述は相応に具体的であり,

請求人からメモを渡されたとの内容も

直ちに不自然不合理であるとの評価ができるものではない。

 

また,Dを代表者とする会社に

本件店舗の営業を仮装譲渡しようとした際,

E行政書士等のほか請求人もAの事務所に参集して話をしていることは,

請求人の関与を強くうかがわせる事情であり,

D公判供述の信用性を支えている。

 

さらに,DがAと口裏合わせをして

証言に臨んだことをうかがわせる事情はない上,

Dが確定審で証人として供述した当時,

本件に関するAの執行猶予付き判決は既に確定しており,

実刑判決を受ける可能性はない状況であった。

 

このような諸事情に照らすと,D公判供述の信用性に

疑義があるとした原決定の前記説示は,

説得力を欠くものというべきである。

 

(3) 以上の検討を踏まえると,A新供述は,

A公判供述の信用性を動揺させるものではなく,

その余の新証拠を考え併せてみても,確定判決の事実認定に

合理的な疑いを抱かせるに足りるものとはいえない。

 

したがって,A新供述等の新証拠が,請求人に対し

無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たるとした原判断には,

刑訴法435条6号の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ず,

その違法が決定に影響を及ぼすことは明らかであり,

原決定を取り消さなければ著しく正義に反するものと認められる

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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