人身保護法及び同規則にいう拘束

(平成30年3月15日最高裁)

事件番号  平成29(受)2015

 

この裁判では、

国境を越えて日本への連れ去りをされた

子の釈放を求める人身保護請求において,

意思能力のある子に対する監護が人身保護法及び

同規則にいう拘束に当たるかについて

裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

被上告人の被拘束者に対する監護が

人身保護法及び同規則にいう拘束に当たるか否か等について

 

意思能力がある子の監護について,

当該子が自由意思に基づいて監護者の下にとどまっているとはいえない

特段の事情のあるときは,上記監護者の当該子に対する監護は,

人身保護法及び同規則にいう拘束に当たると解すべきである

(最高裁昭和61年(オ)第644号同年7月18日

第二小法廷判決・民集40巻5号991頁参照)。

 

本件のように,子を監護する父母の一方により

国境を越えて日本への連れ去りをされた子が,

当該連れ去りをした親の下にとどまるか否かについての

意思決定をする場合,当該意思決定は,

自身が将来いずれの国を本拠として

生活していくのかという問題と関わるほか,

重国籍の子にあっては将来いずれの国籍を選択することになるのかという

問題とも関わり得るものであることに照らすと,

当該子にとって重大かつ困難なものというべきである。

 

また,上記のような連れ去りがされる場合には,

一般的に,父母の間に深刻な感情的対立があると考えられる上,

当該子と居住国を異にする他方の親との接触が著しく困難になり,

当該子が連れ去り前とは異なる言語,文化環境等での生活を

余儀なくされることからすると,当該子は,

上記の意思決定をするために必要とされる情報を偏りなく得るのが

困難な状況に置かれることが少なくないといえる。

 

これらの点を考慮すると,当該子による意思決定が

その自由意思に基づくものといえるか否かを判断するに当たっては,

基本的に,当該子が上記の意思決定の重大性や困難性に鑑みて

必要とされる多面的,客観的な情報を十分に取得している状況にあるか否か,

連れ去りをした親が当該子に対して不当な

心理的影響を及ぼしていないかなどといった点を慎重に検討すべきである。

 

これを本件についてみると,被拘束者は,現在13歳で,

意思能力を有していると認められる。

 

しかしながら,被拘束者は,出生してから

来日するまで米国で過ごしており,

日本に生活の基盤を有していなかったところ,

上記のような問題につき必ずしも

十分な判断能力を有していたとはいえない11歳3箇月の時に来日し,

その後,上告人との間で意思疎通を行う機会を

十分に有していたこともうかがわれず,来日以来,

被上告人に大きく依存して生活せざるを得ない状況にあるといえる。

 

そして,上記のような状況の下で被上告人は,

本件返還決定が確定したにもかかわらず,

被拘束者を米国に返還しない態度を示し,

本件返還決定に基づく子の返還の代替執行に際しても,

被拘束者の面前で本件解放実施に激しく抵抗するなどしている。

 

これらの事情に鑑みると,被拘束者は,

本件返還決定やこれに基づく子の返還の代替執行の意義,

本件返還決定に従って米国に返還された後の自身の生活等に関する情報を含め,

被上告人の下にとどまるか否かについての意思決定をするために必要とされる

多面的,客観的な情報を十分に得ることが困難な状況に置かれており,また,

当該意思決定に際し,被上告人は,

被拘束者に対して不当な心理的影響を及ぼしているといわざるを得ない。

 

以上によれば,被拘束者が自由意思に基づいて

被上告人の下にとどまっているとはいえない特段の事情があり,

被上告人の被拘束者に対する監護は,人身保護法及び同規則にいう

拘束に当たるというべきである。

 

また,上記説示に照らすと,本件請求は,

被拘束者の自由に表示した意思に

反してされたもの(人身保護規則5条)とは認められない。

 

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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