公職選挙法14条,別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定の合憲性
(平成26年11月26日最高裁)
事件番号 平成26(行ツ)78
最高裁判所の見解
(1)ア 憲法は,二院制の下で,一定の事項について
衆議院の優越を認める反面,参議院議員につき任期を6年の長期とし,
解散もなく,選挙は3年ごとにその半数について行うことを定めている(46条等)。
その趣旨は,立法を始めとする多くの事柄について
参議院にも衆議院とほぼ等しい権限を与えつつ,
参議院議員の任期をより長期とすること等によって,
多角的かつ長期的な視点からの民意を反映させ,
衆議院との権限の抑制,均衡を図り,国政の運営の安定性,
継続性を確保しようとしたものと解される。
いかなる具体的な選挙制度によって,
上記の憲法の趣旨を実現し,
投票価値の平等の要請と調和させていくかは,
二院制の下における参議院の性格や機能及び衆議院との
異同をどのように位置付け,これをそれぞれの選挙制度に
いかに反映させていくかという点を含め,
国会の合理的な裁量に委ねられていると解すべきところであるが,
その合理性を検討するに当たっては,参議院議員の選挙制度が
設けられてから60年余にわたる制度及び
社会状況の変化を考慮することが必要である。
前記2の参議院議員の選挙制度の変遷を衆議院議員の
選挙制度の変遷と対比してみると,両議院とも,
政党に重きを置いた選挙制度を旨とする改正が行われている上,
都道府県又はそれを細分化した地域を選挙区とする選挙と,
より広範な地域を選挙の単位とする比例代表選挙との
組合せという類似した選出方法が採られ,
その結果として同質的な選挙制度となってきており,
急速に変化する社会の情勢の下で,議員の長い任期を背景に
国政の運営における参議院の役割がこれまでにも増して
大きくなってきているといえることに加えて,衆議院については,
この間の改正を通じて,投票価値の平等の要請に対する制度的な配慮として,
選挙区間の人口較差が2倍未満となることを基本とする旨の
区割りの基準が定められていることにも照らすと,
参議院についても,二院制に係る上記の憲法の趣旨との調和の下に,
更に適切に民意が反映されるよう投票価値の平等の要請について
十分に配慮することが求められるところである。
イ 参議院においては,この間の人口変動により,
都道府県間の人口較差が著しく拡大したため,
半数改選という憲法上の要請を踏まえて定められた偶数配分を前提に,
都道府県を単位として各選挙区の定数を定めるという
現行の選挙制度の仕組みの下で,昭和22年の制度発足時には
2.62倍であった選挙区間の最大較差が,
昭和52年選挙の時点では5.26倍に拡大し,
平成4年選挙の時点では6.59倍にまで達する状況となり,
平成6年以降の数次の改正による定数の調整によって
若干の較差の縮小が図られたが,
5倍前後の較差が維持されたまま推移してきた。
ウ さきに述べたような憲法の趣旨,参議院の役割等に照らすと,
参議院は衆議院とともに国権の最高機関として
適切に民意を国政に反映する機関としての責務を
負っていることは明らかであり,参議院議員の選挙であること自体から,
直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難い。
昭和58年大法廷判決は,参議院議員の選挙制度において
長期にわたる投票価値の大きな較差の継続を許容し得る根拠として,
上記の選挙制度の仕組みや参議院に関する憲法の定め等を挙げていたが,
これらの諸点も,平成24年大法廷判決の指摘するとおり,
上記アにおいてみたような長年にわたる制度及び
社会状況の変化を踏まえると,数十年間にもわたり
5倍前後の大きな較差が継続することを正当化する理由としては
十分なものとはいえなくなっているものといわざるを得ない。
殊に,昭和58年大法廷判決は,上記の選挙制度の仕組みに関して,
都道府県が歴史的にも政治的,経済的,社会的にも
独自の意義と実体を有し,政治的に一つのまとまりを有する単位として
捉え得ることに照らし,都道府県を各選挙区の単位とすることにより
これを構成する住民の意思を集約的に反映させ得る旨の指摘をしていたが,
この点についても,都道府県が地方における
一つのまとまりを有する行政等の単位であるという限度において
相応の合理性を有していたことは否定し難いものの,
これを参議院議員の各選挙区の単位としなければならないという
憲法上の要請はなく,むしろ,都道府県を各選挙区の単位として
固定する結果,その間の人口較差に起因して上記のように
投票価値の大きな不平等状態が長期にわたって継続している状況の下では,
上記の都道府県の意義や実体等をもって上記の選挙制度の
仕組みの合理性を基礎付けるには
足りなくなっているものといわなければならない。
以上に鑑みると,人口の都市部への集中による都道府県間の
人口較差の拡大が続き,総定数を増やす方法を採ることにも
制約がある中で,半数改選という憲法上の要請を踏まえて
定められた偶数配分を前提に,上記のような都道府県を各選挙区の
単位とする仕組みを維持しながら投票価値の
平等の実現を図るという要求に応えていくことは,
もはや著しく困難な状況に至っているものというべきである。
このことは,前記2(3)の平成17年10月の
専門委員会の報告書において指摘されており,
平成19年選挙当時も投票価値の大きな不平等がある状態であって
選挙制度の仕組み自体の見直しが必要であることは,
平成21年大法廷判決において特に指摘されていたところでもある。
これらの事情の下では,平成24年大法廷判決の判示するとおり,
平成22年選挙当時,本件旧定数配分規定の下での
前記の較差が示す選挙区間における投票価値の不均衡は,
投票価値の平等の重要性に照らしてもはや看過し得ない程度に達しており,
これを正当化すべき特別の理由も見いだせない以上,
違憲の問題が生ずる程度の著しい
不平等状態に至っていたというほかはない。
エ 本件選挙は,平成24年大法廷判決の言渡し後に成立した
平成24年改正法による改正後の本件定数配分規定の下で
施行されたものであるが,上記ウのとおり,
本件旧定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が
違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあると
評価されるに至ったのは,総定数の制約の下で偶数配分を前提に,
長期にわたり投票価値の大きな較差を生じさせる要因となってきた
都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みが,
長年にわたる制度及び社会状況の変化により,
もはやそのような較差の継続を正当化する十分な根拠を
維持し得なくなっていることによるものであり,
同判決において指摘されているとおり,
上記の状態を解消するためには,
一部の選挙区の定数の増減にとどまらず,
上記制度の仕組み自体の見直しが必要であるといわなければならない。
しかるところ,平成24年改正法による前記4増4減の措置は,
上記制度の仕組みを維持して一部の選挙区の定数を増減するにとどまり,
現に選挙区間の最大較差(本件選挙当時4.77倍)については
上記改正の前後を通じてなお5倍前後の水準が続いていたのであるから,
上記の状態を解消するには足りないものであったといわざるを得ない
(同改正法自体も,その附則において,
平成28年に施行される通常選挙に向けて
選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い
結論を得るものとする旨を定めており,
上記4増4減の措置の後も引き続き上記制度の仕組み自体の
見直しの検討が必要となることを前提としていたものと解される。)。
したがって,平成24年改正法による上記の措置を経た後も,
本件選挙当時に至るまで,本件定数配分規定の下での
選挙区間における投票価値の不均衡は,
平成22年選挙当時と同様に違憲の問題が生ずる程度の
著しい不平等状態にあったものというべきである。
(2)ア 参議院議員の選挙における投票価値の較差の問題について,
当裁判所大法廷は,これまで,①当該定数配分規定の下での
選挙区間における投票価値の不均衡が,
違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っているか否か,
②上記の状態に至っている場合に,
当該選挙までの期間内にその是正がされなかったことが
国会の裁量権の限界を超えるとして当該定数配分規定が
憲法に違反するに至っているか否かといった判断の枠組みを前提として
審査を行ってきており,こうした判断の方法が採られてきたのは,
憲法の予定している司法権と立法権との
関係に由来するものと考えられる。
すなわち,裁判所において選挙制度について
投票価値の平等の観点から憲法上問題があると判断したとしても,
自らこれに代わる具体的な制度を定め得るものではなく,
その是正は国会の立法によって行われることになるものであり,
是正の方法についても国会は幅広い裁量権を有しているので,
裁判所が選挙制度の憲法適合性について
上記の判断枠組みの下で一定の判断を示すことにより,
国会がこれを踏まえて自ら所要の適切な是正の措置を講ずることが,
憲法上想定されているものと解される。
このような憲法秩序の下における司法権と立法権との関係に照らすと,
上記①において違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に
至っている旨の司法の判断がされれば国会はこれを受けて
是正を行う責務を負うものであるところ,
上記②において当該選挙までの期間内にその是正がされなかったことが
国会の裁量権の限界を超えるといえるか否かを判断するに当たっては,
単に期間の長短のみならず,是正のために採るべき措置の内容,
そのために検討を要する事項,実際に必要となる手続や
作業等の諸般の事情を総合考慮して,国会における
是正の実現に向けた取組が司法の判断の趣旨を踏まえた裁量権の
行使の在り方として相当なものであったといえるか否かという
観点に立って評価すべきものと解される
(最高裁平成25年(行ツ)第209号,第210号,
第211号同年11月20日大法廷判決・
民集67巻8号1503頁参照)。
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