愛知県議会議長の同県議会議員に対する発言の取消命令の適否は司法審査の対象となるか

(平成30年4月26日最高裁判所第一小法廷)

事件番号  平成29(行ヒ)216

 

この裁判では、

愛知県議会議長の同県議会議員に対する発言の取消命令の適否は,

司法審査の対象となるかについて

裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

(1) 裁判所法3条1項にいう一切の法律上の争訟とは,

あらゆる法律上の係争を意味するものではなく,

その中には事柄の特質上自律的な法規範を有する団体の

内部規律の問題として自治的措置に任せるのを適当とするものがある。

 

そして,普通地方公共団体の議会における法律上の係争については,

一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り,

その自主的,自律的な解決に委ねるのを適当とし,

裁判所の司法審査の対象とはならないと解するのが相当である

(最高裁昭和34年(オ)第10号同35年10月19日大法廷判決・

民集14巻12号2633頁参照)。

 

(2) 普通地方公共団体の議会の運営に関する事項については,

議会の議事機関としての自主的かつ円滑な運営を確保すべく,

その性質上,議会の自律的な権能が尊重されるべきものであり,

地方自治法104条は,普通地方公共団体の議会の議長は,

議場の秩序を保持し,議事を整理する旨を規定し,

同法129条1項は,議会の会議中,同法又は

会議規則に違反しその他議場の秩序を乱す議員があるときは,

議長は,発言を取り消させ,その命令に従わないときは,

その日の会議が終わるまで発言を禁止し又は議場の外に

退去させることができる旨を規定している。

 

このような規定等に照らせば,同法は,

議員の議事における発言に関しては,

議長に当該発言の取消しを命ずるなどの権限を認め,

もって議会が当該発言をめぐる議場における秩序の維持等に関する係争を

自主的,自律的に解決することを前提としているものと解される。

 

そして,本件規則123条は,配布用会議録には県議会議長が

取消しを命じた発言を掲載しない旨を規定しているところ,

この規定は上記のとおり議長に議場における

秩序の維持等の権限を認めた地方自治法104条及び

129条1項の規定を前提として定められたものと解される。

 

そうすると,議事を速記法によって速記し,

配布用会議録を関係者等に配布する旨を定めた

同規則121条2項及び122条は,同規則123条の規定と併せて,

同法123条1項が定める議長による会議録の調製等について

具体的な規律を定めたものにとどまると解するのが相当であり,

県議会議員に対して議事における発言が配布用会議録に記載される

権利利益を付与したものということはできない。

 

したがって,県議会議長により取消しを命じられた発言が

配布用会議録に掲載されないことをもって,

当該発言の取消命令の適否が一般市民法秩序と直接の関係を有するものと

認めることはできず,その適否は県議会における内部的な問題として

その自主的,自律的な解決に委ねられるべきものというべきである。

 

(3) 以上によれば,県議会議長の

県議会議員に対する発言の取消命令の適否は,

司法審査の対象とはならないと解するのが相当である。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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