日産自動車事件(残業差別事件)
(昭和60年4月23日最高裁)
事件番号 昭和53(行ツ)40
この裁判では、労働組合が併存する場合に、
一方の労働組合に対してのみ残業を命じないことが
不当労働行為にあたるかについて裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
複数組合併存下にあっては、
各組合はそれぞれ独自の存在意義を認められ、
固有の団体交渉権及び労働協約締結権を保障されているものであるから、
その当然の帰結として、使用者は、いずれの組合との関係においても誠実に
団体交渉を行うべきことが義務づけられているものといわなければならず、
また、単に団体交渉の場面に限らず、すべての場面で使用者は各組合に対し、
中立的態度を保持し、その団結権を平等に承認、
尊重すべきものであり、各組合の性格、傾向や
従来の運動路線のいかんによって
差別的な取扱いをすることは許されないものといわなければならない。
使用者において複数の併存組合に対し、
ほぼ同一時期に同一内容の労働条件についての提示を行い、
それぞれに団体交渉を行った結果、従業員の圧倒的多数を擁する組合との間に
一定の条件で合意が成立するに至ったが、
少数派組合との間では意見の対立点がなお大きいという場合に、
使用者が、右多数派組合との間で合意に達した労働条件で
少数派組合とも妥結しようとするのは自然の成り行きというべきであって、
少数派組合に対し右条件を受諾するよう求め、これをもって
譲歩の限度とする強い態度を示したとしても、
そのことから直ちに使用者の交渉態度に非難すべきものがあるとすることはできない。
団体交渉の場面においてみるならば、合理的、
合目的的な取引活動とみられうべき使用者の態度であっても、
当該交渉事項については既に当該組合に対する団結権の否認ないし
同組合に対する嫌悪の意図が決定的動機となって行われた行為があり、
当該団体交渉がそのような既成事実を維持するために
形式的に行われているものと認められる特段の事情がある場合には、
右団体交渉の結果としてとられている使用者の行為についても
労組法7条3号の不当労働行為が成立するものと解するのが相当である。
そして、右のような不当労働行為の成否を判断するにあたっては、
単に、団体交渉において提示された妥結条件の内容や
その条件と交渉事項との関連性、ないしその条件に固執することの
合理性についてのみ検討するのではなく、当該団体交渉事項がどのようないきさつで
発生したものかその原因及び背景事情、ないしこれが当該労使関係において持つ意味、
右交渉事項に係る問題が発生したのちにこれをめぐって
双方がとってきた態度等の一切の事情を総合勘案して、
当該団体交渉における使用者の態度につき不当労働行為意思の有無を判定しなければならない。
本件残業問題に関し、上告人会社が支部所属組合員に対し
残業を一切命じないとする既成事実のうえで支部との団体交渉において誠意をもって交渉せず、
支部との間に残業に関する協定が成立しないことを理由として
支部所属組合員に依然残業を命じないとしていることの
主たる動機・原因は、同組合員を長期間経済的に
不利益を伴う状態に置くことにより
組織の動揺や弱体化を生ぜしめんとの意図に
基づくものであったと推断されてもやむをえない。
したがって、以上と同旨の見地に立ち、
団体交渉の結果として措置を継続しているかにみえる製造部門における
支部所属組合員の残業組み入れ拒否につき、
労組法7条3号の不当労働行為が成立するものとした原審の判断は、
これを是認するに足りる。
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