朝日火災海上保険事件(労働協約の規範的効力)
(平成9年3月27日最高裁)事件番号 平成7(オ)1299
Y社は、昭和40年にA社の鉄道保険業務を引き継いだのに伴い、
同部に勤務していた者をそれまでどおりの
労働条件で雇用することとなり、
Y社のもともとの従業員とA社から移籍した従業員の労働条件は
直ちに統一せず、Y社の従業員で組織されるB労働組合との間で、
就業時間、退職金、賃金制度等の労働条件を
順次統一化を進めてきました。
しかし、定年の統一については合意に至らないまま時が経過し、
A社出身の従業員の定年が満63歳とされていたのに対し、
それ以外の労働者の定年は満55歳とされたままでした。
被上告会社は、昭和52年度の決算において
実質17億7,000万円の赤字を計上するという経営危機に直面し、
従来からの懸案事項であった定年の統一と併せて
退職金算定方法を改定することを会社再建の重要な施策と位置付け、
組合との交渉を重ねるようになりました。
その間、労使間の合意により、
昭和54年度以降退職手当規程の改定についての合意が
成立するまでは、退職金算定の基準額を
昭和53年度の本俸額に凍結する
変則的取扱いがされることとなりました。
本件労働協約は、Y社の従業員の定年を満57歳とし、
ただし、満60歳までは特別社員として
正社員の給与の約60パーセントに相当する給与により
再雇用を認めるものとするものでした。
退職金は、満57歳の定年時に支給し、
退職金の基準支給率は、現行の
「30年勤続・71か月」から「30年勤続・51か月」とし、
本件変更に伴う代償金が支給されるというものでした。
A社出身でB労働組合員であったX(53歳)は、
労働協約の変更による定年年齢の引き下げと、
退職金基準の引き下げは無効であると主張し、
65歳定年制を前提とする退職金の
支払いを受ける地位にあることの
確認を求めて訴えを提起し、1審、原審ともXの請求を棄却し、
Xは上告しました。
最高裁判所の見解
本件労働協約は、Xの定年及び
退職金算定方法を不利益に変更するものであり、
昭和53年度から昭和61年度までの間に昇給があることを考慮しても、
これにより上告人が受ける不利益は決して小さいものではないが、
同協約が締結されるに至った以上の経緯、当時のY社の経営状態、
同協約に定められた基準の全体としての合理性に照らせば、
同協約が特定の又は一部の組合員を殊更不利益に取り扱うことを目的として
締結されたなど労働組合の目的を逸脱して締結されたものとはいえず、
その規範的効力を否定すべき理由はない。
本件労働協約に定める基準がXの労働条件を
不利益に変更するものであることの一事をもって
その規範的効力を否定することはできないし、また、
Xの個別の同意又は組合に対する授権がない限り、
その規範的効力を認めることができないものと解することもできない。
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