電通事件(過労自殺と使用者の安全配慮義務違反)
(平成12年3月24日最高裁)事件番号 平成10(オ)217
長時間にわたる残業(1ヶ月あたりの残業時間は147時間)
を恒常的に伴う業務に従事していた労働者Aが、
心身ともに疲労困憊し、自殺し、
Aの遺族のXらは、Aの死は、会社に強いられた長時間労働により
うつ病を発生したことが原因であるとして、
民法415条、709条に基づき、会社に損害賠償請求を起こしました。
最高裁判所の見解
労働者が労働日に長時間にわたり
業務に従事する状況が継続するなどして、
疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、
労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、
周知のところである。
使用者は、その雇用する労働者に従事させる
業務を定めてこれを管理するに際し、
業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して
労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと
解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し
業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、
使用者の右注意義務の内容に従って、
その権限を行使すべきである。
身体に対する加害行為を原因とする被害者の損害賠償請求において、
裁判所は、加害者の賠償すべき額を決定するに当たり、
損害を公平に分担させるという損害賠償法の理念に照らし、
民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して、
損害の発生又は拡大に寄与した被害者の性格等の
心因的要因を一定の限度でしんしゃくすることができる。
この趣旨は、労働者の業務の負担が過重であることを
原因とする損害賠償請求においても、
基本的に同様に解すべきものである。
しかしながら、企業等に雇用される労働者の性格が
多様のものであることはいうまでもないところ、
ある業務に従事する特定の労働者の性格が
同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして
通常想定される範囲を外れるものでない限り、
その性格及びこれに基づく
業務遂行の態様等が業務の過重負担に起因して
当該労働者に生じた損害の発生又は拡大に寄与したとしても、
そのような事態は使用者として
予想すべきものということができる。
しかも、使用者又はこれに代わって労働者に対し
業務上の指揮監督を行う者は、
各労働者がその従事すべき業務に適するか否かを判断して、
その配置先、遂行すべき業務の内容等を
定めるのであり、その際に、
各労働者の性格をも考慮することができるのである。
したがって、労働者の性格が前記の範囲を
外れるものでない場合には、
裁判所は、業務の負担が過重であることを
原因とする損害賠償請求において
使用者の賠償すべき額を決定するに当たり、
その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等を、
心因的要因としてしんしゃくすることはできない。
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