国会議員の発言と国家賠償責任

(平成9年9月9日最高裁)事件番号  平成6(オ)1287

 

衆議院議員のYが委員会で委員として質疑を行う際の発言で、

私立病院の院長のAに対して、名誉又は信用を低下させる発言をし、

その発言が原因で、Aが自殺をし、

Aの妻Xが国とYに対して損害賠償を求め、

訴えを提起しました。

 

憲法51条は、

「両議院の議員は、議院で行った演説、討論又は表決について、

院外で責任を問はれない。」と規定し、国会議員の発言、表決につき

その法的責任を免除していますが、

この規定について、裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

質疑等の場面においては、

国会議員が個別の国民の権利に対応した関係での

法的義務を負うこともあり得ないではない。

 

しかしながら、質疑等は、

多数決原理による統一的な国家意思の形成に密接に関連し、

これに影響を及ぼすべきものであり、

国民の間に存する多元的な意見及び諸々の利益を反映させるべく、

あらゆる面から質疑等を尽くすことも国会議員の職務ないし

使命に属するものであるから、

質疑等においてどのような問題を取り上げ、

どのような形でこれを行うかは、国会議員の政治的判断を含む

広範な裁量にゆだねられている事柄とみるべきであって、

たとえ質疑等によって結果的に個別の国民の権利等が

侵害されることになったとしても、

直ちに当該国会議員がその職務上の法的義務に

違背したとはいえないと解すべきである。

 

憲法51条は、「両議院の議員は、

議院で行った演説、討論又は表決について、

院外で責任を問はれない。」と規定し、

国会議員の発言、表決につきその法的責任を免除しているが、

このことも、一面では国会議員の職務行為についての

広い裁量の必要性を裏付けているということができる。

 

もっとも、国会議員に右のような広範な裁量が認められるのは、

その職権の行使を十全ならしめるという

要請に基づくものであるから、

職務とは無関係に個別の国民の権利を

侵害することを目的とするような行為が

許されないことはもちろんであり、また、

あえて虚偽の事実を摘示して

個別の国民の名誉を毀損するような行為は、

国会議員の裁量に属する正当な職務行為とはいえないというべきである。

 

国会議員が国会で行った質疑等において、

個別の国民の名誉や信用を低下させる発言があったとしても、

これによって当然に国家賠償法1条1項の規定にいう

違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が生ずるものではなく、

右責任が肯定されるためには、当該国会議員が、

その職務とはかかわりなく違法又は不当な目的をもって事実を摘示し、

あるいは、虚偽であることを知りながらあえてその事実を摘示するなど、

国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いて

これを行使したものと認め得るような

特別の事情があることを必要とすると解するのが相当である。

 

本件についてみるに、

本件発言が法律案の審議という国会議員の職務に

関係するものであったことは明らかであり、また、Yが本件発言をするについて

Yに違法又は不当な目的があったとは認められない。

 

全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

 

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