税関職員が行った郵便物の各検査と憲法35条
(平成28年12月9日最高裁)
事件番号 平成27(あ)416
この裁判では、
郵便物の輸出入の簡易手続として税関職員が無令状で行った検査等について,
関税法(平成24年法律第30号による改正前のもの)76条,
関税法(平成23年法律第7号による改正前のもの)105条1項1号,
3号によって許容されていると解することが
憲法35条の法意に反するかについて
裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
憲法35条の規定は,主として刑事手続における強制につき,
司法権による事前抑制の下に
置かれるべきことを保障した趣旨のものであるが,
当該手続が刑事責任追及を目的とするものではないとの理由のみで,
その手続における一切の強制が当然に同規定による
保障の枠外にあると判断することは相当でない。
しかしながら,本件各規定による検査等は,
前記のような行政上の目的を達成するための手続で,
刑事責任の追及を直接の目的とする手続ではなく,
そのための資料の取得収集に直接結び付く
作用を一般的に有するものでもない。
また,国際郵便物に対する税関検査は
国際社会で広く行われており,
国内郵便物の場合とは異なり,発送人及び名宛人の有する
国際郵便物の内容物に対するプライバシー等への期待が
もともと低い上に,郵便物の提示を直接義務付けられているのは,
検査を行う時点で郵便物を占有している郵便事業株式会社であって,
発送人又は名宛人の占有状態を
直接的物理的に排除するものではないから,
その権利が制約される程度は相対的に低いといえる。
また,税関検査の目的には高い公益性が認められ,
大量の国際郵便物につき適正迅速に検査を行って輸出又は
輸入の可否を審査する必要があるところ,
その内容物の検査において,発送人又は名宛人の承諾を得なくとも,
具体的な状況の下で,上記目的の実効性の確保のために必要かつ
相当と認められる限度での検査方法が
許容されることは不合理といえない。
前記認定事実によれば,税関職員らは,
輸入禁制品の有無等を確認するため,
本件郵便物を開披し,その内容物を目視するなどしたが,
輸入禁制品である疑いが更に強まったことから,
内容物を特定するため,必要最小限度の見本を採取して,
これを鑑定に付すなどしたものと認められ,
本件郵便物検査は,前記のような
行政上の目的を達成するために必要かつ相当な
限度での検査であったといえる。
このような事実関係の下では,裁判官の発する令状を得ずに,
郵便物の発送人又は名宛人の承諾を得ることなく,
本件郵便物検査を行うことは,本件各規定により
許容されていると解される。
このように解しても,憲法35条の法意に反しないことは,
当裁判所の判例(最高裁昭和44年(あ)第734号
同47年11月22日大法廷判決・刑集26巻9号554頁,
最高裁昭和61年(行ツ)第11号平成4年7月1日大法廷判決・
民集46巻5号437頁)の趣旨に徴して明らかである。
そして,前記認定事実によれば,本件郵便物検査が,
犯則事件の調査あるいは捜査のための手段として
行われたものでないことも明らかであるから,
これによって得られた証拠である本件郵便物内の覚せい剤及び
その鑑定書等の証拠能力を認めた
第1審判決及びこれを是認した原判決の判断は正当であり,
所論は理由がない。
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