証券取引法164条合憲判決(インサイダー取引の規制)
(平成14年2月13日最高裁判所)
事件番号 平成12(オ)1965
A社は、東京証券取引所第2部に株式が
上場されているX社の株式を購入し、
短期売買取引でA2社に売り、
合計2018万3691円の短期売買利益を得ました。
X社は、A社に対して、
証券取引法(以下「法」)164条1項に基づき、
短期売買取引で得た利益の提供を求め、
一審、二審はこの請求を認容しました。
これに対してA社は、
A社とA2社の代表は同じ甲で、
甲が両方の会社の単独株主である本件の場合、
法164条1項の趣旨を逸脱する秘密の不当利用や、
一般投資家の損害発生はなく、
本件でこれを適用すべきでなく、
適用するのであれば、
同項は憲法29条に違反すると主張しました。
最高裁判所の見解
財産権は、それ自体に内在する制約がある外、
その性質上社会全体の利益を図るために立法府によって
加えられる規制により制約を受けるものである。
財産権の種類,性質等は多種多様であり、また、
財産権に対する規制を
必要とする社会的理由ないし目的も、
社会公共の便宜の促進、経済的弱者の保護等の
社会政策及び経済政策に基づくものから、
社会生活における安全の保障や秩序の維持等を
図るものまで多岐にわたるため、
財産権に対する規制は,種々の態様のものがあり得る。
このことからすれば、
財産権に対する規制が憲法29条2項にいう
公共の福祉に適合するものとして
是認されるべきものであるかどうかは、
規制の目的,必要性,内容,その規制によって制限される
財産権の種類、性質及び制限の程度等を
比較考量して判断すべきものである。
法164条1項の規制の目的、必要性について検討するに、
上場会社等の役員又は主要株主が
一般投資家の知り得ない内部情報を
不当に利用して当該上場会社等の
特定有価証券等の売買取引をすることは、
証券取引市場における公平性、公正性を著しく害し、
一般投資家の利益と証券取引市場に対する
信頼を損なうものであるから、
これを防止する必要があるものといわなければならない。
同項は、上場会社等の役員又は
主要株主がその職務又は
地位により取得した秘密を不当に
利用することを防止することによって、
一般投資家が不利益を受けることのないようにし、
国民経済上重要な役割を果たしている証券取引市場の
公平性、公正性を維持するとともに、
これに対する一般投資家の信頼を
確保するという経済政策に基づく
目的を達成するためのものと解することができるところ、
このような目的が正当性を有し、
公共の福祉に適合するものであることは明らかである。
次に、規制の内容等についてみると、同項は、
外形的にみて上記秘密の不当利用の
おそれのある取引による利益につき、
個々の具体的な取引における秘密の不当利用や
一般投資家の損害発生という事実の有無を問うことなく、
その提供請求ができることとして、
秘密を不当に利用する取引への誘因を
排除しようとするものである。
上記事実の有無を同項適用の
積極要件又は消極要件とするとすれば、
その立証や認定が実際上極めて困難であることから、
同項の定める請求権の迅速かつ確実な行使を妨げ、
結局その目的を損なう結果となり兼ねない。
また、同項は、同条8項に基づく
内閣府令で定める場合又は
類型的にみて取引の態様自体から
秘密を不当に利用することが
認められない場合には適用されないと
解すべきことは前記のとおりであるし、
上場会社等の役員又は主要株主が行う当該上場会社等の
特定有価証券等の売買取引を禁止するものではなく、
その役員又は主要株主に対し、一定期間内に行われた取引から
得た利益の提供請求を認めることによって
当該利益の保持を制限するにすぎず、
それ以上の財産上の不利益を課するものではない。
これらの事情を考慮すると、
そのような規制手段を採ることは、
前記のような立法目的達成のための手段として
必要性又は合理性に欠けるものであるとはいえない。
以上のとおり、法164条1項は証券取引市場の公平性、公正性を
維持するとともにこれに対する一般投資家の信頼を確保するという
目的による規制を定めるものであるところ、
その規制目的は正当であり,
規制手段が必要性又は合理性に欠けることが明らかであるとは
いえないのであるから,同項は、公共の福祉に適合する制限を
定めたものであって、憲法29条に違反するものではない。
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