学校法人の理事会等の決議無効確認の訴の許否
(昭和47年11月9日最高裁)
事件番号 昭和44(オ)719
この裁判では、
学校法人の理事会または評議員会の決議が
無効であることの確認を求める訴は、
現に存する法律上の紛争の直接かつ抜本的な解決のため
適切かつ必要と認められる場合に、
許容されるものと解すべかについて
裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
およそ確認の訴におけるいわゆる確認の利益は、
判決をもって法律関係の存否を確定することが、
その法律関係に関する法律上の紛争を解決し、
当事者の法律上の地位の不安、危険を除去するために
必要かつ適切である場合に認められる。
このような法律関係の存否の確定は、
右の目的のために最も直接的かつ効果的になされることを要し、通常は、
紛争の直接の対象である現在の法律関係について個別に
その確認を求めるのが適当であるとともに、それをもって足り、
その前提となる法律関係、とくに過去の法律関係に遡って
その存否の確認を求めることは、その利益を欠くものと解される。
しかし、ある基本的な法律関係から生じた法律効果につき
現在法律上の紛争が存在し、現在の権利または
法律関係の個別的な確定が必ずしも紛争の抜本的解決をもたらさず、
かえって、これらの権利または法律関係の基本となる
法律関係を確定することが、紛争の直接かつ抜本的な解決のため
最も適切かつ必要と認められる場合においては、
右の基本的な法律関係の存否の確認を求める訴も、
それが現在の法律関係であるか過去のそれであるかを問わず、
確認の利益があるものと認めて、
これを許容すべきものと解するのが相当である。
ところで、法人の意思決定機関である会議体の決議は、
法人の対内および対外関係における
諸般の法律関係の基礎をなすものであるから、
その決議の効力に関する疑義が前提となって、
右決議から派生した各種の法律関係につき現在紛争が存在するときに、
決議自体の効力を既判力をもって確定することが、
紛争の解決のために最も有効適切な手段である場合がありうることは、
否定しえないところと解される。
商法252条は、株式会社における株主総会の決議の内容が
法令または定款に違反する場合においては、
その決議の無効の確認を請求する訴を提起することができ、
決議を無効とする判決は、第三者に効力を及ぼす旨を規定しているが、
これは、右のように、決議自体の効力を確定することが、
決議を基礎とする諸般の法律関係について存する
現在の法律上の紛争を抜本的に解決し、かつ、
会社に関する法律関係を明確かつ画一的に決するための手段として、
最も適切かつ必要であることに鑑み、
かかる訴につき確認の利益を肯定したものと解される。
そして、このような紛争の抜本的解決の必要性が
株式会社のみに特有の現象であるとして、
かかる訴がとくに例外的に認められたというものでないことは、
他の若干の法人の意思決定機関の決議につき商法252条を
準用する規定の存することによっても、
窺い知ることができるのであるが、
さらに、実定法上その旨の明文の規定が存在しない法人にあっても、
同様の趣旨において、意思決定機関の決議が
その本来の効力を生じたかどうかを確定することを求める訴を
許容する実益の存する場合があることは否定しがたく、
この点につき右の準用規定の存する法人と然らざるものとで
截然と区別する実質的な理由は認められないのであって、
明文の準用規定を設けていない法人についても、
商法252条を類推適用することは必ずしも
許されないことではないと解すべきである。
本件におけるように、学校法人の理事会または評議員会の決議が、
理事、理事長、監事の選任ないし互選、
それらの者の辞任の承認等を内容とする場合に、
右決議の効力に疑義が存するときは、
右決議に基づくこれら役員の地位について争いを生じ、
ひいては、その後の理事会等の成立、他の役員の資格、
役員のした業務執行行為および代表行為の効力等派生する法律関係について
連鎖的に種々の紛争が生じうるのであって、
このような場合には、基本となる決議自体の効力を確定することが、
紛争の抜本的解決のため適切かつ必要な手段であるというべきであり、
私立学校法が商法252条を準用する規定を設けていないことを理由に、
右決議の効力を争う訴につきその利益を否定することは、
相当でないのである。
したがって、学校法人の理事会または
評議員会の決議の無効の確認を求める訴は、
現に存する法律上の紛争の解決のため適切かつ
必要と認められる場合には、
許容されるものと解するのが相当である。
これと異なり、前示のような見解のもとに、ただちに、
本件各決議の無効確認の訴を不適法として却下した原審の判断は、
違法たるを免れないものというべきである。
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