反訴における相殺の抗弁

(平成27年12月14日最高裁)

事件番号  平成25(オ)918

 

この裁判では、

 本訴請求債権が時効消滅したと判断されることを条件とする,

反訴における当該債権を自働債権とする相殺の抗弁の許否について

裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

係属中の別訴において訴訟物となっている債権を自働債権として

他の訴訟において相殺の抗弁を主張することは,

重複起訴を禁じた民訴法142条の趣旨に反し,

許されない(最高裁昭和62年(オ)第1385号平成3年12月17日

第三小法廷判決・民集45巻9号1435頁参照)。

 

しかし,本訴において訴訟物となっている債権の全部又は

一部が時効により消滅したと判断されることを条件として,

反訴において,当該債権のうち時効により消滅した部分を

自働債権として相殺の抗弁を主張することは

許されると解するのが相当である。

 

その理由は,次のとおりである。

時効により消滅し,履行の請求ができなくなった債権であっても,

その消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には,

これを自働債権として相殺をすることができるところ,

本訴において訴訟物となっている債権の全部又は

一部が時効により消滅したと判断される場合には,

その判断を前提に,同時に審判される反訴において,

当該債権のうち時効により消滅した部分を

自働債権とする相殺の抗弁につき判断をしても,

当該債権の存否に係る本訴における判断と

矛盾抵触することはなく,審理が重複することもない。

 

したがって,反訴において上記相殺の抗弁を主張することは,

重複起訴を禁じた民訴法142条の趣旨に反するものとはいえない。

 

このように解することは,民法508条が,

時効により消滅した債権であっても,

一定の場合にはこれを自働債権として

相殺をすることができるとして,

公平の見地から当事者の相殺に対する期待を

保護することとした趣旨にもかなうものである。

 

そうすると,原判決のうち被上告人の反訴請求を認容した部分は,

上記2の相殺の抗弁についての判断がないため,

主文を導き出すための理由の一部が欠けているといわざるを得ず,

民訴法312条2項6号に掲げる理由の不備がある。

 

これと同旨をいう論旨は理由があり,

原判決のうち上記部分は破棄を免れない。

 

そして,上記2の相殺の抗弁につき,

更に審理を尽くした上で必要な判断をさせるため,

上記部分につき本件を原審に差し戻すこととする。

 

その余の上告理由は,違憲及び理由の不備をいうが,

その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって,

民訴法312条1項及び2項に規定する事由のいずれにも該当しない。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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